FBでも書いた通り、私のこの作品に対する評価は「限りなく凡作に近い良作」です。見て損したとかは思わないけれど、あえて人に勧められるかというとそこまではいかない。とりあえず総合的に見て小説の出来とアニメーションの出来が殆ど変わらないので、小説を読みなれてる人はとりあえずそっちを読んでみるのも一つの手。文庫版も出ている事ですし、Kindleでもいいですし。それでどうしても気になったら映像を見ればよいと思います。このように書くのには当然理由がありますので、私がこの映画を観てどう感じたかも含め書き留めておきたいと思います。
 なお、多大にネタバレを含む上にかなり辛辣な内容になっていると思うので、それが嫌な人はここから先を読まないことをお勧めします。

1.細部の荒が多い
 私はFBで細かいことは考えずにカジュアルに見るべきかもしれないと書きましたが、その理由の大部分はこの点にあります。全て挙げるのは控えますが、細かい所できちんと考えてないんだろうな、と思う点が多々見受けられます。
 ファンタジーというものはよく勘違いしている人が居るのですが、架空の事を描くのだから何でもアリだという訳ではありません。むしろ、そういった架空の話を混ぜるからこそ、細部はきっちりしていなければならないし、矛盾点が生まれないようにしておかなければならないのです。ただでさえ本来有りえないことを描くのに、きっちりすべきところをきっちりしていないと物語がとても散漫になるからです。余談ですが、最近はやりのライトノベル(特にネット小説)では、この面で雑だったり、そこまで行かずとも深く考えられてないように思える作品が多く、パッと読んだ感じでは面白そうに思えても読み進めていくうちに残念な事になる作品が非常に多いです。

閑話休題

 勿論、精神の入れ替わりは脳との整合性が取れないとか、タイムトラベル等によるタイムパラドックス問題とか、彗星と地球の距離と速度の関係が現実とはかけ離れすぎとか、その辺を突っ込むのはあまりに無粋です。そこはファンタジーだからで納得して良い部分です。
 ですが、例えばもし精神の入れ替わりをギミックとして取り入れるならば、その入れ替わりに対する設定はきっちり作らなければなりません。しかし、そうでないのだろうな思わせる点がとても多く、劇中から一例をあげると記憶の保持に関しての線引きが非常に曖昧で、ケースによって一貫性が無く、どうにもご都合主義な面がぬぐえない点があります。他にも疑問符が付く点が多く、これで細かい設定がきちんと決められていたらむしろ驚きます。
 また、入れ替わった際も、お互い携帯持ってんだからまず自分の番号にかけてみるだろ普通っていう。あるいは自分の携帯でなく自宅でも良い。それが出来ないという設定なら、自分の携帯にかけようとして番号が思い出せないシーンを挿むとかやりようはいくらでもあったはずです。そうすれば(もしそれが可能だったら)、お互いの齟齬にはすぐに気付けたはずですし、それが不可能だったら「お互いの状況を正確に把握したいのに把握できないもどかしさ」を演出できたと思うのですが。
 更に、スマホに記録(日記)残してるなら時間軸がずれていることぐらいすぐに気付くでしょう。日付なんていくらでも目に入るし。まあ私は、「歴史改変を防ぐためにマインドブロックがかかっていたのだ」と無理やり納得しましたが、だいぶ無理があると思います。というか、それならそれでシーンを挿むべき。
 あと、週に2~3度入れ替わりがあるとか、はっきり言ってきちんと考えれば日常生活が破たんしかねない頻度です。少なくとも近しい人には絶対にごまかせないでしょう。なのに普通に気付くのがヒロインの祖母だけとか(もう一人特殊な状況で気付くけど)何でだよっていう。これが数週間に1回とかならまだ分かりますが。
 主人公とヒロインがお互いに好意を持つようになるのも、特殊な状況に巻き込まれた吊り橋効果ってことで無理やり納得しましたが、二人がお互いの魅力に触れるシーンが皆無なのでどうにも説得力が無いように感じます。
 ちょっと自分に置き換えて考えれば分かりますが、自分の中に他人(しかもそれが全く知らない異性)が入り込んで生活して、その間の事に一切関与できないというのは圧倒的な恐怖です。その状況で相手に好意を持つというのは余程のことが無い限り無理だと思うのですが、考えすぎですかね?この辺は全く別の話になりますが、ライトノベルの「ココロコネクト ヒトランダム」で描かれた精神の入れ替わりで、「どんなに信頼できる友人でも、自分の中に入ってどう行動されるか(自分にとって不利益なことをしないか)を疑う事を止められない」と苦悩するキャラクターの方が私は共感できます。
 他にも、いくら建設会社の社長の息子だからって高校生がちょろまかせるほど発破用の爆薬及び起爆装置の管理がずさんなはずないでしょうとか、物語の後半だけ時間の流れ方が明らかにおかしいとか、主人公の糸守町行に同行した先輩と友人の行動がただのウザキャラでなんで同行したのかわからない(この辺は小説はまだまし)とか、人が転ぶときはそんな転び方しないとか、そんな幹幅のある丸太を鋸でその形に(しかも女子高生の体と男子高校生のスキルで)加工できるわけないだろとか、人の唾液は雑菌だらけなので口噛み酒を3年もろくに管理せず屋外に放置したら絶対に酒どころか得体のしれない何かになってるだろうとかいろいろありますが極めつけはラスト。
 詳細は書きませんけど、「そこまで衝動で行動した人間は、そこでそうは動かないだろう!」と思いっきり心の中で突っ込んでしまいました。いやいやそりゃねーよと。
 とまあ、突っ込みどころが多々あり、しかもアニメーションとして優れているわけでもないので、正直小説だけを読んでも別に良いと思うほどだった訳です。これが、アニメーションとしての魅力にあふれていれば、少なくとも映像を見た方が良い(そっちが本来主体だし)と言えるのですが。
 一応「秒速5センチメートル」を見ている身として、所々ニヤリと出来る描写があったんですけど、物語の本筋とは関係ないですし。

2.音楽が残念
 始めに断わっておきますが、このアニメーション中で使われている音楽単体の完成度が低いと言っているわけではありません。むしろ、魅力的な音楽が多かったと思うくらいですし、少なくともその点で批判できるほど音楽に造詣が深いわけではありません。だったら、何が残念だったかというと、「音楽が映像に溶け込んでいない」んですよ。少なくとも私はそう感じました。
 とにかく音楽と映像が別物に感じられて、映像に集中できないという事が頻繁にありました。音楽が主張しすぎてるとも言えるかもしれません。これはこれまでに見たどのアニメーション及び映画で意識にすら登らないことが殆ど、というか今回が初めてなので、特に私が気にし過ぎってこともないと思うのですが(実際に映画を見るまで考えすらしなかった)、他の人の評価はどうだったんでしょうね?
 この点も、特にアニメーションの方を勧めなくてもいいかな、と思う理由の一つです。

3.登場人物が生きていない
 正直私自身としてはこの点が一番致命的に感じました。
 私は、優れた物語においては、架空の世界であれそれぞれの人物が実際に生きており、物語はその一部分を切り取っているにすぎないと思っています。ですから好きな作品はその前後の事やifの物語によく想像をめぐらしますし、まれにスピンオフや番外編、外伝等が出ると非常に嬉しく思う訳です。
 私が好きな作家は「登場人物が勝手に動き出す」とか、「私は登場人物が動く際にカメラを向けるだけ」などと発言している人がいますが、同じことを指しているのだろうと思っています(と言うかそういった言葉に影響されて今のように考えるようになったのかもしれません)。また、「どんな物語にも理想形というものがあって、作家はどれだけその理想形に近づけられるかだ」というようなことも、ちょっと趣旨は違いますが似たような意味での発言と言えるかもしれません。
 ですが、君の名はを見た時に、真っ先に感じたのは「この作品に出てくる登場人物はその殆どが、作者がこう動かしたいと考えて動かしている、あるいは描きたいシーンに合わせて行動させられている」という感触でした。その為、ただでさえ創造物でしかないものが、余計に作り物めいて見えてどうにも残念な感じを受けたわけです。因みにこの感覚は中心に位置するキャラクターほど強く、最も自然に感じられた人物は主人公の妹の四葉でした(かなり脇役ですけど、いい味出してたと思います)。そんなわけで、私がこの作品の中心人物の中で好きになったキャラクターは一人もいなかったりします。

4.「君の名は」でなければならない必然性が薄い
 まず最初に言っておきますが、「君の名は」で使われているギミックがありふれているとか、別の作品に似てるとかいう気は有りません。むしろ、そういう見方はかなり嫌いです。そもそも、世の中には星の数ほど物語があり、その中で似た作品が全く無い(完全にオリジナルである)ことなどありえないと思っていますし、それは登場人物などについても同様です。
 あるゲームクリエイターのセリフを借りれば、
「そもそも世界に於けるキャラクターの本質的パターンとは、所詮は有限であり、後は世界中でそれらが延々と使い回されていると、私は考えています。例えるならばキャラクターは世界に有限個の人形<ひとがた>であり、創作者たちがそれらに着せる服がオリジナリティという事です。これを踏まえて、もし人形が同じで服まで似通っていたならば、それは確かにパクリだとかの謗りを受ける対象であるかもしれません。しかし人形が同じというだけで脊髄反射し、服の違いを差し置いてパクリだパクリだと喚き立てるのは、非常に見苦しく興醒めであり、またもし自分にその声が向けられたならば、このドレッドノート級痴れ者をどうしてくれようかと、苦々しい面構えをする事でしょう。 」
ということです。
 ですが、それらを踏まえた上でも、この作品はどうにも紋切型過ぎるきらいがあると感じます。発生している事象、そこからの登場人物の行動、周囲の反応、それぞれのキャラクターの見せ方、人間関係とそこに付随する感情の発露など等。どうにもテンプレート的すぎて、もうちょっと何とかならなかったんだろうか、とどうしても思ってしまいます。このような感覚は良質なファンタジーを多く読むあるいは観ている人ほど、強く感じると思います。私程度の経験ですらそう感じるのですから、職業的に多くの作品に触れる人はなおさらだと思います。先の言葉で言えば、「人形が同じで服まで似通っている」ように感じる訳ですね。
 私が作品中で面白いなと思ったところは、「口噛み酒をネットで売ったら?写真つきで」「ダメ!酒税法違反!」「え、そういう問題?」というやり取り位です。まあ、これも割とテンプレくさいけど。
 このあたりもこの作品の登場人物が「生きてない」と感じた要因の一つでもあるかもしれません。

5.それでもぎりぎり良作だと感じた理由
 色々とここまで書いてきましたが、それでも何だかんだでこの作品がぎりぎり良作だと思う理由は、王道的な展開をはずしていない事と、それなりに全体を上手くまとめていると思うからです。王道的というとありふれているとかオリジナリティが無いとか感じる人がいると思うのですが、結局物語って展開は王道的なものが面白いと感じる事が私は多いです。むしろ、奇を衒ったりあえて王道を外すような作品は、つかみは良くても作品をまとめきれなかったり、あまりに突飛すぎて気持ち悪さを覚えたりすることが多いように思います。
 名作と呼ばれるような作品は、王道的な展開に普遍的な価値観を踏襲しつつ、それでも他とは明らかな差を見せるオリジナリティを持った作品が、そう呼ばれるのではないかと考えています。
 「君の名は」は確かに出てくる人物、展開、ギミック、心理描写などはどれもテンプレート的ですけど、それゆえにどこか安心感があります。また、まとめ方については細かい点を見ればたくさんの疑問点が出てくるけれど、それらが物語を破綻させるほどの問題点となったり局所に偏ったりしておらず、起承転結もある程度明確でありバランスは悪くない事がその要因だと思います。
 加えて、物語の展開上きっちりハッピーエンドに収めたのも良かったです。私は非常に好きになる作品に何故かハッピーエンドとは受け取れないようなラストを迎える物が多いですし、物語の展開や登場人物の価値観などを無視して無理やりハッピーエンドにするような作品は好みません。ですが、それでもやっぱり綺麗にハッピーエンドを迎える作品は大好きですし、この作品は展開上ハッピーエンド以外有りえないと思うので、変に悲劇風に終わらせなかったのは流石に安心しました。
 ただ逆に言えば、そこにプラスアルファが殆どない(どころか欠点も多くある)ので、どうしても「限りなく凡作に近い良作」という位置にしかおさまらなかったわけですが。

 因みに、キネマ旬報のベスト10外だったことや、アカデミー賞にノミネートされなかった事を、興業と評価が乖離していると言うコメントをしばしば見かけます。有体に言えば、「君の名は」は正当な評価が下されていない、もっと高い評価が与えられるべきだ、という事が言いたいようです。
 ですが、これはむしろ「君の名は」を過大評価していると思います。まあ、これだけ売れている作品に対して正面から辛辣な評価を行う事が難しい(そんなコメントを望まれていない)のでオブラートに包んだり、あるいはおためごかしとしてそう言っているだけかもしれませんが。カジュアルな作品だから評価が低くなりやすいという側面もあるとは思いますが、むしろ先に挙げたような多数の欠点があり、作品の完成度が高いとはどんなに取り繕っても言えない(何らかの受賞を目指すのならば致命的なレベル)と思うからです。
 全く同じ筋書きだったとしても、細部をきちんと詰めているだけでも評価はかなり変わったはずです。但し、それでも今回のようなヒットになったかはまた別の問題ですが。むしろ、それらの声に困惑する審査員や評論家も多いのではないかと想像します。

 色々書いてきましたが、それでもこういった文を書こうと思う程度には心に残った作品ではあります。本当にどうでもいい作品だったならば、そもそも感想を書こうとすら思わなかったでしょう。また、カジュアルに楽しめる作品はそれはそれで非常に大切ですし、こういったヒットがあればこそ重みのある作品に取り掛かれるという側面もあるでしょう(もっともカジュアルな作品だから設定が甘くていいなんてことは無いですが)。
 ですので、新海監督には是非次作で、これぞと思うような作品を作ってほしいなと思います。
 期待を込めて。