長期の練習プランについて考えるうえで、技術の安定と技術の高さについて説明としないといけないので、まず先にこれを説明します。

 技術の安定というのはその名の通りどれだけ失敗の数が少ないか、技術の高さというのはどれだけ難しいことが出来るかです。この2つについて、同一のものと捉えている人が少なくないように感じます。というよりかは、技術が安定しているという事が技術が高いと思っている人が多いのでしょうか。
 これは単一の技術にだけ焦点を置けば、確かに安定させることがその技術を上達させることと一致するために、混同しがちなのかもしれません。ですが、様々な技術をトータルで考えれば、この2つはある程度の相関はあるものの、別の概念であるという事を意識しなければなりません。

 上位の技術が出来るようになるためにはある程度下位の技術が安定している必要があります。そういう意味では確かに技術の安定は技術の高さに繋がります。また、単一のトリックだけを見れば(例えばpdx whirlだけ等)、最終的に行き着くのは安定化ではあります。しかし、あらゆるトリックを包括して考えると、別の概念として捉えた方が良い場合が多くあります。例えば、下位の技術が安定すれば安定するほど上位の技術が習得できるとは限らないといった具合に。
 むしろ、上位の技術を習得しないまま下位の技術を安定させすぎると、逆に成長を阻害する要因になる事すらあります。

 まず、初めに認識していてほしいのは、安定するというのはそれだけ変化しにくいという事です。これは悪い方向に振れにくいだけでなく、良い方向にも振れにくいという事を認識せねばなりません。上位の技術にチャレンジするときに、下位の技術がある程度安定していないと、悪い方向への振れがボトルネックになってしまい技術習得が難しいことはその通りです。
 しかし、上位の技術を会得しないままに下位の技術を極端に安定させると、良い方向への振れが少なくてこれまた技術習得に時間がかかるのです。

 また、下位の技術しかできない状況では、上位の技術に通用するのかが分からない事も多いです。上位の技術に挑戦して初めて、ああ今までの自分の技術や体の使い方ではまずいなという事が認識でき、技術や動作を改善するきっかけになるという事は非常に多くみられます。
 しかし、「下位の技術を完璧に身に着けるまで上位の技術に挑戦しない」なんてことをしていると、技術や体の使い方のまずさに気が付かないまま安定させてしまう危険があります。そしてその技術が悪い技術(レベル的に低かったり応用のきかない技術)だった時、「悪い癖」が定着するという事態が発生します。悪い癖になるというのは、悪い動きを無意識に体が再現してしまう状態のことです。
 こうなると修正するのは非常に厄介で、長い時間と膨大な反復による改善が必要となります。何しろ無意識にその動作を行ってしまうので、治すのが非常に難しいんですね。こういった悪い癖が身につく前に修正するには、どのような技術が良い技術なのか、という指針が無いといけません。そもそも自分が知らないことや新しく知った技術や感覚については良い悪いの判断が明確に出来ない為、その指針に沿ってるがどうかで暫定的に判断するわけです。

 この点については後に技術に関するコラムで詳しく触れますが、その一つとして私が大学時代の指導教官に言われた考え方で、「良い技術とは誰にとってもどんな状況でも通用する(適用範囲の広い)技術だ」という考え方があります。例として、clipper stallで説明しましょう。
 clipper stallはおそらくフットバッグの中で、最も根幹にある技術の1つという事が出来ると思います。このclipperについて良い技術とは、clipperが安定していることもそうですが、そこからspinやducking、steppingやbarraging等、clipperから始動する全てのトリックに移れるclipper stallが良い技術だと言えます。
これが、duckingは出来るけどspinnningには移りにくいようなclipper stallは、どんなに単体で安定していようが良い技術とは言えないという事です。余談ですが、duckingが出来るけどspinが出来ないという人は、clipper stallの動きが大きすぎることと、clipper setをstall動作の反動で上げている可能性があると考えられるでしょう。
また、stallそのものの技術で言えば普通の clipperは安定して出来るけれど、duckingを絡めると安定しない、というならばそれはどこかに欠点があるという事を意味するでしょう。
更に、Aさんのclipperは安定しているけど、他の人に真似できるようなものではない(属人的である)技術というのもまた、真に良い技術とは言えません。但し、その場合は人の身体構造や体の柔軟性などで人それぞれに大きな幅が有り、一概には言えない部分もありますが(例えばvasekのclipperは素晴らしい技術ですけど、あの足の形を真似できる人は限られるでしょう)。
そしてこれらの事について、上位の技術に自分が習得した下位の技術が通用するかどうか(適用範囲の広い技術かどうか)は、殆どの場合実際に試してみないと分からないのです。
 つまり、下位の技術を練習するだけでは何時まで経っても「良い技術」は身につかないという事です。様々な技術にチャレンジしていく中で、適用範囲の広い技術や動作を選別し残していく、これを繰り返すことで技術が高まり、動作が洗練され良い技術に育つという事です。

 貴方が技術を習得するときは、ある程度の不安定さや未完成な部分を残したまま上位の技術に挑みましょう。完璧な技術なんてそうそうあるものではありませんし、それは体の使い方でも同様です。
 しかし一つ言えることは、下位の技術で得られた感覚や動作が上位の技術に適用できるかどうかはわかりませんが、上位の技術で得られた感覚や動作は殆どの場合において下位の技術に適用可能であるという事です。まあ、難しいことが出来る技術が、簡単な方に生かせないという事は普通に考えれば起こりにくいでしょう。
 下位の技術を練習するだけより、上位の技術も練習する方が視野が広がるという事も出来ます。

 そして、ここで注意してほしいのは、技術が安定していることが技術が高いことと完全にイコールでないように、高い技術を有しているからと言って技術が安定しているわけでは決してないということです。ここでは恥ずかしながら私の例で説明します。
 私は、体調を崩す前までにwhirl系統の技術で、最高難度で8addを2つ、次いで7addで両サイドを2つずつのトリックを成功させました。7ADDのストロングだけならあまり数えてませんけど、かなりの数のトリックを成功させたはずですし、6add以下なら数えるのが面倒なレベルでたくさんあります。おそらくこれだけを説明すれば、殆どの人はwhirl系統の技術が得意なんだと思うのではないでしょうか。
 ですが、あまり安定化の練習をしなかったので、pdx whirlですら連続回数の最高記録は6回でした。blurry whirlは3回、PS whirlは4回程度で、いずれも最高回数がこれなので、実質的にできるのはせいぜい2連続といったところですかね。
 これは、お世辞にもwhirlの技術が安定しているとは言えないでしょう。というか、初メイクの方が何かの間違いなんじゃないかと思う人が殆どではないでしょうか。でも、やや極端な例になると思いますけど、練習内容次第でこんな事態も起こりうるってことなんです。

 もっとも、難しい技術が出来るようになればなるほど、技術の安定化に寄与することも事実ではあります。その人にとって難しいと感じる技術よりも、簡単に感じる技術の方が安定させやすいからです。
 例えばpdx whirlの安定化の練習一つとっても、その人にとって出来る技の最高難度のトリックがpdx whirlの人と、spinning ducking pdx whirling rakeが最高難度の人では、後者の人が早いスピードでより高い安定性を得られるようになる可能性が高いという事ですね。
 ですが、人はもともとミスなく安定して何かを行う、という事にあまり向いていません。「人は必ずミスをする」のです。ですので、少なくともフリースタイルに必要なレベルの安定性を得るためには、相応の安定させる事に特化した反復練習をせねばなりません。

 高度な技術へのチャレンジと、高いレベルでの安定化は、これまで述べてきたようにお互いに影響を与えますが、同時に行うには相性がよくありません。ではどうするかというと、ここでようやく長期的なプランニングの話に戻ります。その答えとして、「時期で分ける」のです。
 基本的には1ヶ月周期や3ヶ月周期(あるいは2週間周期のように短縮するのもあり)で、技術を高める練習と技術を安定させる練習を交互に行います。また、これまでの説明で想像がつくかと思いますが、基本的に技術を高める練習の方が先に来ますが、どちらが先でもさして違いはありません。
 高いレベルの技術を得て、それを基に安定化を図る、そして一定の安定を得たら次の高度な技術へ……というように循環を形成することが大事なので、最初にどちらが来ても最終的に循環を形成できれば問題ありません。
 そして、ここが非常に大事な点ですが、JFCやWFC等の試合の直前期間に最後の安定化練習期間が来るよう調整します(当然ですよね)。ですが、テニスでそうだったんですけど、意外とこれが出来てない人が多いんですよね。
 特に試合の直前期においては、技術を高める練習はほとんど意味を成しません。もし高い技術の気づきが得られたとしても、定着していないので試合で使う事がきわめて難しいからです。考えてもみてください、JFCの1週間前に初メイクした技を、フリースタイルの中で使いますか?そんな人まずいないでしょう。というか、sick3にすら組み込めないはずです。
 流石に初メイクの例は極端でしょうが、それ以外の気付きなどがあったとしても、それが「無意識に出来る」レベルでなければ試合では使い物にならないか、使えても極端に用途が限られるかのいずれかになります(これも後に技術に関する記事で触れます)。
 そして、どんな気づきであれそれを無意識に出来るようになるまでには、それなりの時間、言い換えれば反復練習が必要となります。ゆえに、試合直前期においては、「新しい技術を習得する」よりも「すでに身に着けた技術について安定性を増す」練習が重要になるわけです。

 繰り返しになりますが、技術を安定させることと高度にすることは、基本的に特性の違う練習(それぞれの特性に合った練習)を行わなければ達成できません。また、どちらかだけを練習すれば、もう片方もついてくるというようなものでもありません。それぞれの特性についてきちんと理解し、両方ともバランスよく取り組むことが肝要です。