前回の記事で低糖質ダイエットについて、競技スポーツを行うならば決して取り組んではいけない事を説明しました。今回は、なぜ低糖質ダイエットがある程度の成果を上げるのかと、スポーツを行わないような生活習慣の人にとっては有益となるのかを考えていきましょう。

 まず、なぜ低糖質ダイエットがある程度の効果を上げるのかについて、これについては低糖質ダイエット肯定派の人が主張する、現代の食生活は糖質過多であるという主張が正当性を持っていると言えるでしょう。
 特に砂糖を多量に含むものが非常に多く、清涼飲料水、菓子・チョコレート類やアイスクリーム類、菓子パン・ケーキ類等が市場には大量にあふれています。かなり気を付けて食事を管理している人でなければ、一日で摂取する糖質量はたいていの人の場合適正量よりも多くなっているはずです。
 ここで、一般的な成人男性のケースで、どの程度の糖質摂取が適正か考えてみましょう。
 まず、基礎代謝量については、そこまで強度の高いスポーツを行っていなければ概ね1500~1600キロカロリー程度だと言われています。あまり強度の高い運動を行わない人の消費カロリーは人にもよるので一概に言いにくいですが、多めに見積もっても概ね700~800キロカロリー程度だと考えられます。このあたりを自分のケースで出したい人は「メッツ値」で調べてみてください。
 これらを合計すると1日の消費カロリーは2200~2400キロカロリー、ここでは中間値として2300キロカロリーとして考えましょう。これは、一般的な成人男性の1日に置ける必要カロリーである1800~2200キロカロリーとあまり差は無いので、そこまで無茶な値では無いはずです。この総カロリーの半分を糖質で補給すると考えると1150キロカロリー、糖質は1gあたり4キロカロリーなので炭水化物換算で287.5gが必要量となります。
 これを1日3食で考えれば1食あたり約96g、なお以前にも触れましたが、通常主食外からの炭水化物の摂取が20g程度あると言われているので、差し引き76gが主食から摂るべき炭水化物量となります。
 お米の炭水化物含有量は77.6%(炊き上げ前)なので、76÷77.6%で約100gのお米が必要。お米1合が150gなので2/3合程度が1食あたりの炭水化物摂取量となります。これは大体中茶碗に多めに盛った程度の量です。

 但し気を付けなければいけないのは、この摂取量は間食及び飲料、果物類等食事以外から一切糖質を取らない場合です。
 例えばここにりんご半分、コカコーラをペットボトルで1本(500ml)、砂糖入りの缶コーヒー1本(約200ml)を1日の間に追加で摂るとどうでしょうか。
 りんごは1個でおおよそ240g、糖質の割合は10%程度と言われているので240/2*0.1で12g、コカコーラは100ml中11.3gの糖質なので5×11.3で56.5g、砂糖入り缶コーヒーだと物によりかなり量が左右されますが、大体100ml中7.5gと仮定すると約15g。
 ここに挙げた量だとそこまで間食をしているとか果物を食べ過ぎだとは感じない人が多いかと思いますが、それでも摂取した糖質の量は83.5gにも上ります。これは1食分で主食から摂らなければならない糖質量を上回っており(つまり一食分は主食無にしなければならないレベルの糖質量)、1食分で摂らなければならない炭水化物量に匹敵します。
 ここにちょっとしたお菓子やチョコレート、あるいは清涼飲料水500mlをもう1本程度を加えると、下手をすると1日の摂取量の半分にすら到達しかねません。つまり、間食、果物を含むデザート、砂糖入りの飲料の全てを絶ってでもいない限り、1食に許される主食の量は最初に挙げた量よりもかなり少なめにする必要があります。
 つまり、もし最初に挙げた程度のデザートや飲料を取る人ならば、概ね中茶碗1杯の2/3程度にお米の量を抑える必要があるという事です。しかも、これは強度の高い運動を行わないもののそれなりに運動をするケースで考えているため、例えば1日の大半をデスクワークで過ごし、殆ど歩かないという人の場合は更に必要量は減ります。また、朝、昼、夜にコカ・コーラ1本相当の清涼飲料水を摂っていれば、それだけで1日に必要な糖質量の半分を軽く超えます。
 そして以前にも説明しましたが、糖質というものはどんなに鍛えようが殆ど貯蔵量を増やす事が出来ず、体内で貯蔵する形態であるグリコーゲンの量は一定に保たれます。余剰分は全て脂肪となって蓄えられます。
 つまり、一般の人の生活体系を考えれば、ある程度の糖質制限を行ってようやく適正量レベルだという事です。その為、おそらくほとんどの人が実施する低糖質ダイエットは、相当にストイックに行っていない限り実は適正量に近づいただけになっている可能性が高いと考えられます。
 更に低糖質ダイエットの肯定派の論拠に厳密なデータではなく、実施した人の経験談による効果による調査が多数を占める為に、余計に有効に見える(他の要因による変化が排除されていない、もしくは殆ど考慮されていない)理由ではないかと分析しています。

 しかし、これらの事はあくまで結果としてそうなっているだけで、実際に彼らが主張するように本当に低糖質の生活を送った場合についてはどうでしょうか。彼らが提唱する糖質摂取量は人にもよりますが、1日の総カロリーの20%以下、極端な場合だと全く摂らない方が良いと主張する人もいます。もし仮に食事から完全に炭水化物を抜くと、それ以外の食事から補給される炭水化物の量は20g×3で60g。カロリーに換算すると240キロカロリーですから、総カロリーの10%~11%程度ということになります。
 このような食生活にすると、まず一つ考えられることは、糖質を制限することで脂肪を利用したエネルギー利用が活発になるであろうことです。これだけを見ればいいことのように見えます。ですがここで間違えてはいけないのは、「摂取するエネルギー量(同化量)と消費するエネルギー量(消費量)が変わらなければ、そのエネルギー源が糖質であれ脂質であれ体重の減少に一切変化はない」という事です。また、脂質によるエネルギー生産は非常に燃費の良い生産の為、1gの脂質から9キロカロリーのエネルギーを生み出すことが出来るということも考慮しなければなりません。
 つまり、低糖質ダイエットを有効にするためには、糖質を制限することで脂肪を利用した代謝を活発にすることで効率の良い代謝系となり、結果としてエネルギー生産量が増え、更にそのエネルギーをきちんと使うような生活をしなければ意味が無いという事です。
 更にこの効果が現れる時期は非常に短いことが予想されます。具体的に言えば、「体内のグリコーゲン量が枯渇するまで」の期間のみ、言い換えれば貯蔵していたグリコーゲンと脂肪によるエネルギー生産を両立させていられる期間のみです。
 低糖質ダイエットを続け、体内グリコーゲン量が減少していき、枯渇状態に近づくと体が飢餓状態であると判断します。この状態になると人は身体の活動を低下させます。具体的に言えば基礎代謝量が落ち、持久力が低くなり、運動してもすぐに疲労を感じてしまい運動を続けられなくなります。
 この状態においても低糖質ダイエットを続ければ、身体はグリコーゲンを利用したエネルギー生産が殆どできなくなるので、脂肪のβ酸化がより活発に行われ、更に脂肪を蓄えてない器官(特に脳)でも利用できるようにケトン体を多く生産します。アミノ酸の糖新生も始まるとともに、糖質の利用は最低限の分野に限られます。
 この段階に至る(ケトン体が多く生産されている状態)に至れば、ケトン体を利用したエネルギー生産により生み出されるアセトンという物質が呼気に混じるようになります。これはやや甘いにおいをしていることが特徴で、特に医者が後述の糖尿病性ケトアシドーシスを診断する際の項目の一つにもなっています。人によってはダイエット臭と呼ぶ人もいるようです。
 この段階に至れば、かなり身体機能が低下しているでしょうし、特に激しい運動を行う事はかなり危険な状態になっているでしょう。もしこの状態で激しい運動を行ってしまうと、一時的な低血糖状態を引き起こすと思われます。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、日本ではハンガーノックと言われる症状です(英語圏ではHitting the wolf、Hitting the bonk等と言う事が一般的なようです)。
 本来であれば激しい運動を長時間行わないと現れない症状ですが、グリコーゲンが枯渇した状態で無酸素系の代謝を必要とする運動を行えばかなり早くにこの症状が引き起こされることが予想されます。
 それでも低糖質ダイエットを続ければ、先に待ち受けるのは更なるアミノ酸の糖新生です。身体の筋肉量が落ちで行くので益々基礎代謝は低下し、階段や坂道を上る、短い距離を走る、ちょっとした荷物を運ぶ等の日常的に起こる軽度の運動でも息切れを起こしたり疲労を感じるようになるでしょう。

 余談ですが、ライザップが行っている手法は、恐らくこの糖質制限による脂質利用の強制起動と、その有効期間の見極めと適切な運動強度のノウハウ、更に適切な糖質量の把握にあると思われます。
 つまり、ある程度糖質を制限して脂質利用のエネルギー代謝を活発にし、そのエネルギーをきちんと消費することで体重減少に結びつけるとともに、グリコーゲンが枯渇しない糖質の必要量をきちんと見極めているのでしょう。2か月で結果にコミットするとしているのは、言い換えれば2か月以上同様の事を続けるのは少々危険なのかもしれません。このあたりは体験したわけではないので伝聞による推測ですが。
 ですが、2か月の期間の後はそこまで厳しい糖質制限が課されない事を考えても、彼等はグリコーゲンが枯渇する危険性を十分把握していると思われます。これを、聞きかじりの中途半端な知識とノウハウで、自己流に行ってしまうとかなり危険です。また、それを行ってしまっているのが現在の低糖質ダイエット肯定派だと私は捉えています。

 私は低糖質ダイエットに関する本を何冊か読みましたが、まともな論理展開や評価に値するデータを提示している本は有りませんでした。というかあまりの酷さに、耐えられなくなって買うのをやめました。
 最も酷い本になると、筆者本人の体験だけがデータで、そこに明らかに飛躍した(というかぶっ飛んだ)理論をくっつけてさも新発見をしたような書き方をしている本もあって、とんでも本の類に整理していたんですよね。正直に言うと、なぜ本になったのか不思議でしょうがないレベルでした。
 そういった訳で、低糖質ダイエットがまさかここまで流行るとは思っていなくて、どうせ一部に流行病の様に広がった後は、すぐに見向きもされなくなると思っていました。ですが、どうも最近の傾向を見るに、それなりに効果のあるダイエット法として徐々に広まりつつあるように感じたので、これはちょっと危ないなあと思って当記事を書いた次第です。
 適切な糖質量以下に糖質を制限しても良いケースはかなり限られると私は考えています。だからこそ前回の記事で、劇薬に近い物であり慎重な取り扱いが必要だと書いたのです。
 例えば1型糖尿病の人などが一時的に膵臓を休ませる目的で、適切な医師の指導の下に行う場合や、ライザップの様にきちんとした知識やノウハウが確立されておりグリコーゲンの枯渇までは招かないように管理されているであろう場合等です。
 特にインスリン分泌異常による糖尿病の人がこのような手法を行ってしまうと、ケトン体増加による糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こし、最悪の場合命の危険にさらされる可能性すらあります(インスリンの作用によりケトン体を減少させると考えられている)。
 低糖質ダイエットを肯定する人たちは、糖尿病患者への治療法としても有効だと主張し、むしろなぜ糖質を取らせるのだと批判したりもしますが、この危険性を全く考慮していません。

 因みに糖尿病性ケトアシドーシスについて簡単に説明しておきましょう。
 糖尿病の人はインスリンの分泌に異常があります。その為、血中の糖を細胞内に取り込み、エネルギー源とする事が出来ません(だから血中に糖が残り高血糖状態となる)。
 この時に細胞ではエネルギーが枯渇している状態の為、脂肪を利用したエネルギー生産の仕組みが活発になり、脂肪酸のβ酸化が活発に行われます。又その結果として前回も説明したケトン体が生産され、身体内の様々なところへ運搬されます。
 ですが、ケトン体は強い酸性であり、身体内のケトン体が増えると体内が酸性に傾きます。この時にインスリンがきちんと分泌されていれば問題ないとされていますが、糖尿病の人はインスリン分泌に異常が有ります。
 その為体内のケトン体の量をコントロールできず、異常な酸性状態(アシドーシスと言う)になります。ケトン体が原因のアシドーシスですのでケトアシドーシス、そしてその要因が糖尿病(インスリン分泌異常)にあるので、糖尿病性ケトアシドーシスという訳です。
 糖尿病性ケトアシドーシスは酷い場合は死に至る危険性もあり、それを熟知しているからこそ医者は糖尿病患者にインスリン治療を行うとともに一定の糖質を取らせるのです。むろん、適切なインスリン治療を行っていればケトアシドーシスに陥らない(インスリンの作用があるので)という主張もあるかとは思いますが、その有効性についてはまだ確かめられていません。
 現在は医師の中にも糖質制限が有効だと考える人も増えてきているようで、今後きちんとした治験を行い有効性が確認される可能性はあります。
 ですが、これもきちんとしたインスリン治療が行われている前提です。糖尿病に陥った人が、インスリン治療を行わなくても糖質制限を行えば糖尿病は治る等と考えて実施すれば、あっという間に糖尿病性ケトアシドーシスになると考えられますので、もし糖尿病の人が糖質制限による治療を行いたいと考えているならば必ず医師の指導の下に行って下さい。死にたいなら止めはしませんが。

 何度も繰り返し述べてきましたが、糖質というものは人にとって最重要のエネルギー源です。だからこそ、様々な仕組みにより欠乏した時に補完する仕組みが備わっているのです。
 これを「代替的な仕組みがあるから摂らなくてよい」というのはもはや理論にすらなっていない暴論です。例えばあなたは、飛行機で緊急脱出口があるから通常の出入り口を使わなくても良い、と言われてその通りだと思いますか?低糖質ダイエット肯定派の理論の大半は、このレベルの主張です。もはや理論になっていない、といったのはこういった理由です。
 また、独自に取ったデータを持ち出して(例えば~人がダイエットに成功したとか、平均~kgの減量に成功とかいった類ですね)さも効果があるような風を装ってますが、そのほとんどが母数が少なすぎて参考にならなかったり、統計処理が行われていなかったり(ウェブ上で公開されている統計処理の概要にある程度詳しく記述されています)で、正直データとすら呼べないレベルのものが大半、というか私が確認した限りでは全てろくでもないデータでした。そもそも、私はあれを統計上のデータとは呼びたくありません。
 また、もし適切に処理されたデータをそろえたとしても、結局それは相関関係を示すのみであり、因果関係があるかはまた別の話です。まあ、彼らの本を読む限りでは、因果関係を証明したいなどと考えている人はいないのでしょうが(というか統計についてきちんと知識があるかも疑わしい)。

 勿論現在の身体の仕組みに関する理論も完璧なものではないはずで、新たな発見が有れば見直される可能性もありますが、少なくとも現状の知見においては、低糖質ダイエット(過剰な糖質制限)は非常に危険な面が多く、それに比して得られるメリットは殆ど無いと言わざるを得ません。
 前回の記事で私は競技スポーツにおいては百害あって一利なしと言いましたが、それ以外を対象としても百害あって一利くらいしかないのではないかと思います。こんな手法に取り組むのならば、きちんと人の代謝の仕組みについて理解し、それに沿った形で体重をコントロールする方が余程良い、というか正直それ以外の方法は無いと私は思っています。
 次回は、人の体の仕組みを踏まえたうえで、どのように体重をコントロールするかという点について説明したいと思います。