スポーツにおいて基本というと、結構な割合でスポーツを始めた時に取り組む、初歩的な事というイメージを持っている人が居るように思います。確かに、その認識はある面では間違っていません。スポーツを取り組み始めた初期においては基本を真っ先に学びます。
 しかし、競技者として取り組むうえではその理解だけでは不十分です。基本とは、最初に学ぶことであると同時に最後にたどり着くところでもあるのです。武術なら極意や奥義と言っても良いかもしれません。

 テニスにおいて、ノバク・ジョコビッチという選手が居ます。グランドスラム優勝回数歴代4位、ランキング1位在位期間歴代4位、キャリアグランドスラム達成等、非常に多くの偉業を達成し現在もランキング2位で世界のトッププレーヤーとして君臨しています。
 彼のテニスの特徴は、非常に基本に忠実なテニスにあると思っています。テニスでいわゆるセオリー(将棋や囲碁風にいうなら定石)と言われる対応から、殆ど外れません。しかし、その基本に忠実なプレイを、常識はずれの精度で行うために恐ろしいまでの強さと安定感を発揮します。

 また、アメリカのNBAにおいてマイケル・ジョーダン、スコッティ・ピペン、デニス・ロッドマン、スティーブ・カー等の素晴らしい選手を数多く擁し、黄金時代を築いた当時のNBA王者シカゴブルズはトライアングルオフェンスを採用しました。トライアングルオフェンス自体は非常に難解で、戦術書は電話帳程もあると言われる位に戦術は多岐に渡り、おまけに選手に状況に応じたアドリブすら求められるというものでした。
 しかし、その目的は実にシンプルで、バスケットの基本と言われる「イージーシュート」を打つためです。要は難しいシュートやスーパープレイを狙うのではなく、ノーマークであったりゴール下のシュートといった、確実なシュート(成功率の高いシュート)を打つという事ですね。
 言い換えれば、もっとも基本的なことを実行するためにチームが動いていたという事です。

 他にもさまざまなスポーツにおいてトップレベルに達するような選手あるいはチームは、いずれもとても高いレベルの基本が身についています。そして、基本を身につけると口で言うのは簡単ですが、それを高いレベルで実践しようとすると極めて難しい事であり、また終わりのない追求なのです。
 以前ワールズに行った人から、ヴァシェクとジョーダンがクリッパーについて議論していた、という話を聞きましたが、これも基本を極めることは難しいという事を良く表しているように思います。基本というのは一度学べば終わりではありませんし、そう簡単に身につくものでもありません。その多くは、人が一生かけても追求する価値のある、とても奥深い物なのです。
 中途半端な実力の人ほどもう基本は身についたという人が多いように思いますが、基本は身についたと言っている時点で基本が何たるかを理解していません。理解していれば、そんなセリフは出てきません。

 もっとも、基本を身に着ける為には基本だけやればよいというものでもありません。様々な応用を身に着ける事が、基本についての理解を深めます。応用というのはどこまで行っても基本の使い方でしかない事は確かですが、その事をきちんと理解するには基本だけやっていても無理だという事です。
 この基本と応用の関係性を理解せずに、応用をそれ自体が単体の技術ととらえてしまうと、たいていの場合成長が頭打ちになります。基本だけを練習していてもいつまでたっても成長しません。whirlやclipperを練習するだけでは、何時まで経ってもPS whirlが出来るようにならないのと同じです。ですが、応用の技としてPS whirlを単体の技術と認識してしまってはいけないという事です。それを構成する技術を、whirlやclipperの技術にフィードバックすることで、基本の成長が見込めます。
 どんな技術も根本を突き詰めれば、基本をどう取り扱うかという事に集約されます。その事を忘れてしまってはいけません。このように、どのような技術を練習するにも常に基本を意識し練習することが、成長していくうえでは欠かせない姿勢となるでしょう。