以前、心は練習の場で鍛えるものであることと、実際にはそれだけでは不足すると書きました。今回はこのことについて説明しましょう。

 まず最初に質問ですが、あなたは1日にどのくらいフットバッグを練習するでしょうか。長い人でもトータルで5~6時間くらい、普通は2~3時間といったところで、もっと少ない人も多いでしょう。という事は、1日24時間、睡眠時間7~8時間として、練習時間は睡眠時間を除いた時間で1日の大体1/3~1/5程度という事です。
 さて、このような状況でフットバッグの練習の時「だけ」頑張っても、結局それはその人の生活の中ではごく一部なわけで、精神的な影響度はあまり大きくないと言えないでしょうか。また、生活の大半を占める日常生活は、フットバッグには全く無関係なのでしょうか。私は、そんなことは有りえない、言い換えれば日常生活にどのような姿勢で過ごしているかが、その人の競技にも大きく影響してくると考えています。

 日常生活で困難に立ち向かう人はフットバッグでも同じく困難に立ち向かえるでしょうし、逆に妥協しがちな人はフットバッグでも妥協するのではないでしょうか。いや、フットバッグは自分が好きでやってることだから、その他とは違ってちゃんとやるよと言う人もいるかもしれません。
 ですが、どんなにその競技が好きと言っても、競技者としてレベルを高めるためにはどうしても辛いことや苦しいことに対面することになります。特に一定ラインより上のレベルに挑むには、経験したことが無い人には想像を絶する苦しさです(練習を始める前に400mのインターバルを10本やってからとか、1日午前・午後3時間ずつみっちり練習して、その後に激しいトレーニングするとかね)。
 そして、それらの苦しさは単にその競技を好きというだけでは乗り越える事は出来ません(好きという気持ちが無くても乗り越えられませんが)。これが競技スポーツ、とりわけそのトップレベルとそれ以外を分かつ壁になります。また、ここまで高いレベルではなくても、それ以外にもその競技が好きなだけでは乗り越えられないことが沢山あります。
 フットバッグでの具体例を挙げると、例えば苦手なトリックをそのままにしていませんか、嫌いだからやらないとごまかしていませんか、フリップを練習せずストロングばかり鍛えていませんか。必要な持久力を鍛えるためにトレーニングはしていますか、自分の身体のバランスが悪いのを放置してはいませんか。
 日常生活で苦しいことから逃げる人間は、フットバッグでだって苦しいことからは逃げる可能性が高いと思います。それだけならましですが、さもそれが理にかなっているかのように屁理屈をこねてごまかしていると最悪です。自分が逃げたり妥協しているという意識すらないのですから。

 また、別の視点から見ても、日常生活での姿勢というのは大切です。質の高い練習を行うには、きちんとした準備と後始末(フィードバック等)が欠かせないからです。
 練習計画を立てる、自分の動きを動画などで分析する、疲労を残さないようにケアをする、そもそもの練習時間を確保するなど。どれもフットバッグの練習時間外で行う事ですが、自らを成長させていくために非常に大切なことです。
 夜更かしをしたり食事がバランスを欠いていたりすれば、疲労を抜くことが出来ず満足な練習をすることが出来なくなるでしょう。日常をだらだら過ごす人は、練習時間を確保することに失敗することが増えると思います。自分の技術を見つめなおす時間を取らない人は、自分の技術を改善する速度が著しく遅くなるでしょう。練習計画をきちんと立てない人は、そもそも何のために練習をしているのかという目的を見失ったり、脱線する可能性が高くなるでしょう。

 更に、日頃から困難に立ち向かう姿勢を持たない人は、どうしても引けない場面(例えば試合の日)で困難に直面したとき、逃げずに立ち向かえるでしょうか。少なくとも、私が今までテニスで見てきた限りでは、そういう場面できちんと困難に向き合えない人間が殆どでした(自分も含めて)。
 勿論本人としては、一生懸命やっているつもりなんです。でも、無意識に困難な選択から逃げて、安易な道で何とかできないかあがいている、というのがせいぜいです。安易な道でもあがいていればましな方で、半分くらいはあきらめたり投げた試合をしたりするんですよね。
 私がとても好きな言葉で、麻雀打ちの桜井章一という人のこんな言葉が有ります。
「麻雀は水の入った洗面器に顔を突っ込んでるようなもの。苦しさに耐え切れず顔を上げた者から脱落していく。」
 これは麻雀だけではなく、競技スポーツを含む勝負事、とりわけ高いレベルでのせめぎ合いにおいては、実にすばらしく状況を的確に表した言葉だと思います。一定以上のレベルでの勝負は、勝つために必要だと分かっていても踏み込むのに躊躇するほどに、苦しい選択をしなければならないことが多くあります。
 私が経験したのはせいぜい日本国内大学生のトップレベルとの勝負が上限ですが、それでもここまでやらないといけないのかと思う程に、様々な忍耐と苦しい選択を選ぶ勇気と意志の強さが試されました。
 私自身のレベルがそこまで高くなかったこともあり、数十戦してわずか1~2勝しかできませんでしたが、それでもそこでできた経験は非常に大きなものが有りました。そして、トップレベルに行く人たちの決断や選択は、単にその場だけで強くあろうとしたのでは持ちえないもの、言い換えれば日常生活をおろそかにしているような人はトップレベルには存在しないという事は断言できます。

 私がこのことを明確に意識しだしたのは、大学を卒業した後のことでした。それまでこのことについておぼろげにしか認識していなかったのにある程度の結果が出せていたのは、指導者や両親、部活のメンバー等が働きかけてくれいていたおかげでしょう。
 しかし、フットバッグではこういった指導や指摘をしてくれる人があまりいない人が殆どではないでしょうか。また、すでに成人して社会に出ている人間に対しては、よほど明確に上下関係にある場合でなければ、こういった指導はなかなか行いにくいという面もあると思います。
 そんなわけで、現在のフットバッグが置かれている状況で競技者としてレベルを高めるには、自分自身で常に自分を律するしかない人が殆どでしょう。
 最初から大きく変えるというのは難しいでしょうが、少しずつ自分の生活を見直すことを心がけるようにしたいものです。