私は、テニスをこれまでずっと続けてきた中で、競技力を向上させる時に、所々に大きな壁が存在しているように感じたことが有ります。その壁に到達するまでは、普通に練習していけば成長が遅かれ早かれ、徐々に成長していきます。しかし壁に到達すると、その向こうに行くにはそれまでの延長線上で練習していては無理で、様々な面でジャンプやブレイクスルーが必要になると感じるんですよね。
 そしてそれは、これまで述べてきたように「その競技だけ」を頑張るだけでは、まず乗り越えられないのではいかと思います。その時に問われているのは、単にその競技にどう取り組むかなんてレベルではなく、その人の在り方そのものが問われているのだと感じます。

 日常を過ごしていく中で、自らのあり方を問い続けるというのはとても大変なことだと思います。けれど、本当にその競技のトップレベルまで行きたいなら、決して避けては通れないことです。そしてそれは、練習時に心を鍛える方法として示したように、ある日いきなり大きく変えるなんてことは、絶対無理とは言いませんがほぼ不可能に近いでしょう。
 それも、日々心がけながら生活することで、少しずつ変わっていくものだと私は思います。そうして自分を変えながらも、何度も壁に跳ね返され続けるでしょう。しかし、そうしてチャレンジし続けていると、ある日ふとその壁を越えられる日がやってきます。その時に振り返ってみると、フットバッグのみならず人間として大きく成長している事を実感できるでしょう。

 ですが、この壁に挑み続けるのはかなりの忍耐力を必要とします。自分が様々な面で改善したり努力の質を上げたりしても、あまり成長する実感を得られないからです。そうした停滞する状況が続くなかでも、取り組みを途切れさせず、改善を続けていれば、その壁を乗り越える為の力が少しずつたまっていきます。
 この力をため続けている段階では、殆ど成長が感じられません。また、良い結果が表れる事もないことが多いです。ですがこの力がある閾値とも呼べるラインに達し、更にそこに何らかのきっかけが有った時に、一気にその壁を乗り越えることが出来ると私は捉えています。
 そして、この瞬間に本当に劇的に実力が伸びることが多いです。テニスで言えば、「たった1試合で別人のように強くなる」事すら起こったりします。もっとも勘違いしてほしくないのは、そういった停滞していた時期の積み重ねが大きいからこそ一気の成長があるのであり、「努力をしても報われないなら努力するのがもったいない」等と考えて、ろくに積み重ねをしない人には、その様な一気の成長は永遠に訪れないという事です。
 この壁に突き当たった時に、そこにチャレンジし続けられるかどうかが、競技者としてそのスポーツを続けられるかどうかの分かれ目となります。何度チャレンジしても、どんなに改善を重ねても、良い結果が帰ってこないというのはとても精神的なダメージが大きいです。それは、人の精神を折るのに十分な威力を持っています。
 そして多くの人は、この「努力しても報われない」ことから「努力をするのが馬鹿らしく」感じて、そこまでいかずとも努力することをあきらめてしまい、そこそこ出来るというレベルから抜け出すことが出来ません。そういった停滞の日々の中で、それでも自分を信じ律し続け、取り組みを継続できるかどうかという事は、競技スポーツにおいて非常に大切な資質です。
 そしてそのような精神は殆どの人はもとから持ち合わせているものではなく、心を鍛えなければ持ちえないものです。それは前述したように、「競技だけ頑張る」だけでは全く不足なのです。

 毎日を過ごす中で自分を見つめ問い続けることで、少しずつ自分の行動や考え方を変えていく。場合によっては停滞したり、後戻りしたり、何度も失敗したりするでしょう。ですが、人が成長していくには、そういった失敗を糧にして取り組みを続けるしかないと思います。
 確かにいきなり環境を大きく変えることで、大きく成長したり劇的に変化することもあります。けれど、そういった成長はあくまで例外的なもので万人に有効なものではありませんし、再現性が有るものでもありません。また、その様な手法は多くの場合成長できなかった時に大きな代償を支払う事になります。
 競技を嫌いになったりモチベーションが保てなくなるのはまだかわいい方で、場合によってはその競技のみならずあらゆるスポーツに取り組む事すら絶たれるケースも考えられますし、そこまでいかずとも日常生活に支障をきたすレベルで健康を損なう事もあります。
 人が行動を大きく変えるという事は、それが良い方にであれ最初は大きなストレスになると言われています。一足飛びに成果を求めることは、そのほとんどの場合において大きな反動を伴い、それを潜り抜けて成長することが出来るのは運に恵まれたごく一部の人間だけではないでしょうか。
 結局人が成長していくには、地道な積み重ねしかないと私は思っています(歩みが遅いという事とイコールではないですよ)。但し、これはただひたすら苦しいことに耐え続けた人間が成長するんだというような、根性論とはまた性質を異にするものです。
 成長するために苦しいことや辛いことにも取り組む必要が出てくるだけで、単に苦しい・辛いことに取り組んだから成長するわけではありません。それは目的と手段をはき違えているだけです。

 特にメジャーな競技のトップアスリートの特集をすると、華々しさやインパクトのあるエピソードや大きな困難などにフォーカスして語られます。ですが、そういったアスリートの殆どが、実際にははた目に見ればとても地味な積み重ねを、膨大に積み上げているという事を認識すべきです。
 もっとも、どんな世界であれ頂点に達するような人間にとってはそれを行う事がごく当たり前のことになっており、本人には積み重ねているという意識はあまり無いのでしょうが。