試合当日に最高のパフォーマンスを発揮したいのは当然です。では、その為にはどうしたらよいのでしょうか。その為に非常に有効な手法として、ラグビーの五郎丸選手がやっていることで有名になった「ルーティーン」が挙げられるのですが、まずはその前に基礎的なことから始めましょう。

 まず、あまりコンディショニングに詳しくない人がやりがちなのが、試合の直前期(1週間前から2週間前)になって様々な習慣を見直すことです。これはコンディショニングにおいては下の下です。むしろ、そんな直前期にしか見直さないのであれば、やらない方がましかもしれないレベルです(なお、前日だけ気をつけるというのは論外です)。
 というのも、人は安定した状態から変化することを嫌い、ストレスを感じる生き物だからです。この時重要なのは、「その変化がたとえ良い方向への変化だったとしても最初はストレスを感じる」という事です。

 ある面白い実験が有ります。
 細かい日数は忘れましたが(確か2~3か月程度だったはずです)、実験の為に集めた人々を二つのグループに分け、片方はこれまでの生活習慣を全く変えずに、もう片方は健康に良いとされている食事を始めた生活習慣を一定期間実施してもらうというもの。
 その結果として、「生活習慣を全く変えなかった集団が」僅かにではありますが健康的な結果を示したという事です。つまり、健康に良い生活習慣に変える事で得られたメリットを、生活習慣を変えるストレスのデメリットが上回ってしまったという事ですね。
 これは、非常に面白い結果であるとともに、いくつか注意しなければならない点があります。まず、短期的な視点に立てば、それまでよほど身体に悪い生活習慣をしていなければ、どんな良い生活習慣に変えたとしてもその変化によるストレスから最初はマイナス効果が上回る可能性が高いという事。
 そしてこの実験を更に長期間続ければ、良い生活習慣に変えた方がその生活に慣れてストレスが軽減され、その後に良い生活習慣によるメリットを存分に受けられたであろうという事です。良い生活習慣に変えても悪い結果が出るんなら、生活習慣を変える必要が無いと考えるのはいくら何でも短絡的すぎます。

 これらの事から、試合当日への基礎的なコンディショニングは直前からやっても大して意味はなく、普段から心がけていなければならないという事が言えます。
 また、普段全然練習していない技術を試合当日に出来ると思う人はいないでしょうが、生活習慣も同様に普段気を付けていないことを、試合の時だけ気を付けられるようにはなりません。気を付けているつもりでも、どこかで必ず抜けが出てきます。
 もっとも、競技者としてスポーツに取り組むのであれば、必然的に行っているとは思いますが(そうでないと負荷の高い練習を続けられない)。その上で、トレーニングメニューや食生活を時期に応じて徐々に変化させていくのです。

 基礎的な生活習慣について再度触れますが、まず睡眠については、7時間~8時間程度の睡眠時間を確保する事です。但し、最適な睡眠時間は人によって多少変化するので、自分に最適な時間を探りましょう。もっとも、よほどの短眠者でもない限り、7時間を切るような睡眠時間は推奨されません。これは、最優先で確保して下さい。
 食生活においては、特に糖質とタンパク質が不足しないことに気を付けながら、バランスよく行う事が大切です。但し、砂糖やブドウ糖液糖、脂質等は取りすぎてしまう可能性の高い物なので注意して下さい。砂糖やブドウ糖液糖入りの清涼飲料水や菓子・チョコレート類、揚げ物等は簡単に多量の砂糖と油を摂る事になるので、ある程度避けた食習慣を身に着ける事をお勧めします。
 また、激しいスポーツを行う場合、特に女性アスリートは鉄分不足による貧血に陥る可能性が高まりますので注意が必要です(足裏への衝撃により赤血球が壊れる為)。更に、不足しがちなミネラルやビタミン類をきちんととる必要もあります。食事だけで難しければサプリメントを検討して下さい。
 但し、一般的にあまり指摘する人が居ないのですが、栄養過剰という問題(詳しくは調べてください)があるので、栄養は取れるだけ取ればよいというものではありません。過不足なくとる事が非常に重要です。
 また、毎日練習やトレーニングを行うのは、人の身体の仕組み上あまり好ましくありません。ある程度(週に1日~2日)完全休養の日を設けるようにして下さい。なお、この完全休養日というのは体を全く動かさないという事ではありませんし、むしろそんな日を設ける事は非推奨です(逆に疲れが抜けない)。アクティブレストを行い上手くリフレッシュする必要があります。
 もっとも、最近話題のマインドフルネスで提唱されているような「レイジーデイ」も月に1日位ならば設けて良いかもしれません。その日はとにかく自分の気分の赴くままに過ごしてみるとまた面白い発見があるかもしれません。

 これらの基本的な習慣を抑えた上で、コンディショニングの観点から長期的なプランを考えます。
 まず、フットバッグにおいて重要な試合のある日の確認ですが、WFCが大体7月の下旬から8月の上旬、JFCは9月の下旬ですから、重要な試合シーズンは7月~9月と考えればよいでしょう。典型的なサマースポーツと言えます。
 持久力トレーニングに最も適しているのは冬場ですが、フットバッグでは試合の時期からも離れているので非常に好ましいです。よって、気温が下がり始める11月から気温のもっとも低いであろう2月までを重点的に持久力を鍛える期間とします。この時期に、身体的負荷の高いトレーニングをメインに行います。
 この時期は、栄養的な面で特に糖質とタンパク質を多めにとる事を意識します。また、アクティブレストや精神的なケアにもかなり気を使わなければなりません。
 そして3月辺りから技術トレーニングに重点をシフトしていき、WFCメインなら5月半ばまでに、JFCメインなら7月上旬までに完全に技術トレーニングに重心を移します。持久力トレーニングは維持程度で十分です。 また、試合の少なくとも2か月前(望ましくは3か月前)には、技術の安定化をメインとした内容に切り替えます。
 更に2か月を切った時期から、タンパク質と脂質の摂取量を少し減らし、糖質をやや多めにとるようにします。練習の強度はまだ変更しなくても大丈夫です。但し、糖質については比率としては増えますが運動強度は下がるため、全体的な摂取カロリーも減らす必要があり、トータルの量では維持か少し減らす程度になるでしょう。
 そして、1か月前程度になったら、完全に試合への調整をメインに練習内容を組みます。フリースタイルならばこの時点で既に構成を終えるとともに、必要な核技術の習得や安定化の練習を終えていなければなりません。
 練習時間自体は減らしませんが、身体的な負荷の高い練習及びトレーニングは控えるようにして下さい。練習内容は、ひたすらに演技内容を洗練させていく作業を行う事になるでしょう。食事はまだ大幅に変えなくて大丈夫ですが、運動強度が下がるので、全体的な量は更に少なめになるでしょう。
 2週間くらい前から、試合に向けて練習量を調整し始めます。この時点で疲労感が強かったり、あるいは身体パフォーマンスが疲労により低下していると感じたら練習量を減らします。もっとも、練習量を大幅に減らすと自分の調子を落とすだけなので逆効果です。3時間程度の練習を行っているならば、減らしたとしても最大30分程度でしょう。2時間30分より短い練習ならば特に減らす必要は有りません。
 慢性的な疲労が蓄積していると大きな傷害になるので、身体をリフレッシュするための行動を積極的にとってください。特にアクティブレストが非常に重要になります。
 食事については糖質を多く含む米・パン・麺類とビタミン、ミネラルを多量に含む野菜類及び果物類をメインになるようにし、タンパク質と脂質は最低限(但し減らしすぎも良くないので注意)とします。
 後は試合までの自分の体調の推移をチェックしながら、適宜練習内容と食事をコントロールしていきます。但し、先にも言及したように練習量を減らしすぎると負荷が軽くなりすぎて、自らの身体パフォーマンスを落とすことになるので注意して下さい。
 2時間30分程度を目安にし、それよりも少ない練習は負荷が軽くなりすぎるでしょう。体力レベルが十分高いならば、3時間から減らさなくても試合を想定した練習に切り替え負荷の高いトレーニングを控えるだけでも十分なケースは多くあります。
 試合の前日の練習は例外的に軽く行います。試合への不安から前日に激しい練習を行う人が居ますが、はっきり言って逆効果なので控えましょう。練習時間については2時間~2時間半程度を目安に、当日行う技術の感覚を確認する程度で十分です。
 食事については、特に夜は消化に負担のかかる食事は控えます。牛・豚・鳥等のいわゆる肉類はほぼ取らなくてよいでしょう。基本的には麺類などの炭水化物メインの食事とします(但しラーメンは脂質が多いので不可です)。また、ビタミン・ミネラルの補給(特に野菜類に多い)を忘れないようにして下さい。麺類中心の食事にすると、特に外食で済ませる場合結構不足しがちになります。

 このように、各時期でそれぞれに行うべき練習やトレーニング等のプランニングの例を書きましたが、大事なことは「急激に大きな変更を行わない」ことです。
 トレーニングについても、激しいトレーニングを行っている人がいきなり全くトレーニングをやめてしまうと、健康的に良くないことが指摘されていたりいます(脱トレーニングが必要)。
 先にも書きましたが、人は大きな変化を嫌います。そして、変化が急すぎると身体が拒絶反応を返したり、そこまでいかずともストレスにより大きなパフォーマンスの低下や健康への影響を伴う事が往々にしてあります。
 そしてそれは何度も繰り返しますが、「(一般的に)良い方向への変化であっても同様にストレスになる」という事を肝に銘じてください。ですので、常に行うべき習慣をきちんと押さえた上で、時期によって変化させるべき行動を把握し、無理なく少しずつ変化させていくことが大切です。

 また、ここまで書いてきたことで、身体的な準備の事が多く、精神的な事が少ないじゃないかと感じた人もいるかもしれません。ですが、これは次回のルーティーンの解説でも書きますが、身体的な準備を行う事が精神的な準備を行う事にも繋がります。
 ですから、一見身体的な準備にしか見えずとも、精神的な面からのアプローチも同時行っているという事になります。