ラグビーの五郎丸選手がやっていることで非常に有名になったルーティーンの話を今回は行いましょう。因みに非常に誤解されていますが、五郎丸選手のルーティーンで重要な部分は直前にやる腕のしぐさではないとのことです。一番大事なのは、本人いわく「助走を始めてからからキックまでの歩数」だそうです。まあ、分かりやすい部分に飛びつくのがメディアの常ではありますが。
 他にルーティーンを非常にうまく生かして結果につなげている人は、有名なところではメジャーリーガーのイチロー選手でしょう。また、体操の内村航平選手の跳馬の際のしぐさなども特徴的です。このしぐさは自分の軸を確認する動作としても優れているので、私も真似することが有りますね。

 さて、このルーティーンという行動は割とブームになりましたが、「なぜルーティーンを行うか」という点にきちんと焦点を当てた説明はあまりされていないように感じます。これは端的に言えば、自分の心をコントロールする方法の一つなわけですが、その効果を得るためにはきちんと正しく運用しなければなりません。

 ここで一つ質問しますが、あなたは自分の心を完全にコントロールすることが出来るでしょうか。もしこの質問に対しての答えがYESならば、特にこの記事を読む必要はありません。もっとも、そんな人はほぼいないでしょうが。
 人は、思ったよりも自分の心をきちんとコントロールできないものです。試合で緊張して力を発揮できない、チャンスで意気込みすぎて単純なミスをする、ちょっとした集中力の欠如からケアレスミスをするなど。
 心を上手くコントロールできない事から自分のパフォーマンスを発揮できないケースは非常に多くあり、競技スポーツにおいてはどの競技でも重大な問題の一つとなっています。
 勿論ここに、メンタルトレーニングの手法を取り入れることもその解決のアプローチの一つでしょうが、ルーティーンはそれらの問題について身体の面からアプローチするという事です。

 人は、身体と精神が密接に関係していると考えられています。そしてここが重要なことですが、「特定の条件を満たすことにより身体へのアプローチから精神をある程度コントロールできる」事が指摘されています。
 よくゲンを担ぐという言葉は聞いた事があるのではないでしょうか。これも、広義のルーティーンの一つに入れて良いと思います。つまり、「こういう行動をとったから調子が良かったあるいは上手く行った」という行動を、次の試合の時にも繰り返します。
 これだけを見れば単なる偶然かもしれませんし、その時たまたま上手く行っただけかもしれません。ですが、その事を繰り返していると面白いことが起こります。「その特定の行動をとると本当に調子が上がる」という事が起こるようになるのです。もっと厳密に言えば、その特定の行動をとる事により自分の精神が最適な状態にある程度自動的にコントロールされると言えばよいでしょうか。
 実は、ほとんどの人は無意識にルーティーンを一つは実践しています。それは、練習前や試合前にするウォーミングアップもルーティーンの一つになっているからです。殆どの人は怪我をしないために体の準備をするという意識で行っているでしょうが、実はそれと同時に心の準備にもなっているのです。
 ですが、ルーティーンについてはもっと広範な場面で利用できますので、ウォーミングアップだけというのはとてももったいないです。

 ルーティーンは付け焼刃では全く意味がありません。また、人がやっていることを真似することですぐに効果が出るものでもありません。大切なのは、「その特定の行動を行ったときに自分の精神が自動で最適化されるまで自分に刷り込む」事です。
 先のウォーミングアップの例でいえば、殆どの人が「練習や試合の準備として」ウォーミングアップを行っているはずです。これを何度も繰り返すことによって、「ウォーミングアップが終われば準備が完了する」という意識が刷り込まれます。その為、ウォーミングアップが終われば体の準備と同時に心の準備もある程度行えるわけです。
 但し、ウォーミングアップ一つだけだと極度の緊張を強いられるような場面では不足することがありますし、できる場面も試合・練習の直前のみという限られた状況だけです。その為に、他にも様々なルーティーンをくみ上げておくと対応の幅が広がります。
 ここで、私が大学時にテニスを行っていた時のルーティーンを紹介します。といっても、あまり長い期間で紹介すると多すぎるので、直前及び当日の行動、そして試合中の行動だけに絞ります。

・必ず前日までにラケットのガットを張り替え、グリップテープを新品に巻き替える。その上で1回だけ練習に使用する。また、グリップは必ず2枚巻。
・必ず決まった種類・同じ量の道具類、ユニフォームなどを準備する。
・試合の前日の夜はなるべく麺類を食べる(ラーメンを除く)。肉類は極力取らない。揚げ物は禁止。
・当日の朝食に、コンビニで売られている「赤りんご青りんご」を飲む。またパン類ではなくご飯類を食べる。
・試合の時は必ず決まった飲料(大学時はポカリスエットとミネラルウォーター)を準備する。
・当日朝は必ず全体の試合開始時刻(多くは朝9時だが試合による)の1時間前を目安に会場に到着する。
・試合開始時刻の30分前位から決められた手順のウォーミングアップを行う。
・自分の試合開始時間がはっきりしたら、15分前までに更に決められた手順でウォーミングアップを行う。
・試合が開始される見込み時刻の数分前にコートの前で待機し、自分の試合に向けて集中力を高める(他の事への意識を絶つ、特に携帯電話はマナーモードではなく必ず電源を切っていた)。
・試合中に落ち着きたいときやちょっと間を置きたいときに、ガットの乱れを直しながら思考を整理する。
・試合中修正すべきポイントがある場合は、必ず口に出して確認する(セルフトーク)。
・ポイント間に落ち着きたいときに帽子を一度脱ぎ汗をぬぐった後にかぶりなおす。
・特に重要なポイント等で一度目を閉じて深呼吸し終わったら相手を見据える。この深呼吸の際に自分の戦略が上手く行く場面をイメージする。

 主なところをざっとあげましたが、えっこんなことも、と思うような内容もあったと思います(赤りんご青りんごとかね)。ですが、それぞれにきちんと意味があり、効果があるものを選別したうえで、負担にならないものを残した結果がこれなんですね。あと、それらの効果を高めるための前準備を行っていることもあります。
 例えば赤りんご青りんごについてはものすごく大好きな飲料なのも理由に加えて、ルーティーンで使うためにあえて普段は摂らないようにするという前準備をしています。こうすることで、好きなものを飲むという行為に加えて試合という日の特別感を強調するようにしているわけです。
 これらの手順を何度も繰り返していると、準備段階のものは一つ一つの手順を踏むたびに自分が「試合モード」に自然に移行するのをはっきりと実感できるようになりました。それにつれて余計な事を考えることが減り、試合への集中力が増したように感ます。
 また、試合中のものはほとんど無意識的な行動になっていますが、これをやることで「腹をくくる」ことが多少なりともできるようになった気がします。

 これらは一つ一つを見れば、ただの準備であったり特に何でもない行動の一つであったりします。つまり、客観的に見れば大して意味がない行動も多いです。それゆえに、他人が形だけまねしても全く意味のない行為もそれなりにあります。
 ですが、私がそこに意味を持たせて繰り返し行ったことで、私にとってはいわば一つの儀式のようなものになっているわけですね。そうなると、後はその行動をなぞるだけで、自分の精神が自動的に整えられるようになります。これが、ルーティーンを行う大きな目的です。
 もっとも、ルーティーンを行ったって上手く行かない事もあるでしょうし、調子の悪い日だってあるでしょう。ですが、そちらも考え次第で刷り込みを継続することは可能です。
 それは、「ルーティーンを行ったのに調子が悪かった」ではなく、「ルーティーンを行ったから被害をこの程度に抑えられている(やっていなければもっと調子が悪かった)」と考える事です。
 殆どの人は屁理屈か苦しい言い訳に感じるでしょうが、それらも積み重ねれば本物に昇華するから不思議なものです。

 これらの理由から、ルーティーンは人がやっているのを参考にするのも良いですが、最重要なことは自分でそこに明確に意味づけをする事です。ルーティーンはあくまで自分で作るものだという事を意識して下さい。そして、一度ルーティーンを定めたら何度も繰り返し行うことが大切です。
 また、もう一つ大事なこととして、このルーティーンでは一般的に良いとされているものでも、ウォーミングアップなどの必須であることは別として(これが嫌いな人はまさかいないでしょうが)、自分に合わないものは行ってはいけないという事があります。
 特に自分が嫌だなと感じることは絶対にするべきではないと思っています。例えば私は好きでない食べ物は絶対に食べないようにしています。また、嫌な記憶とリンクしているものも厳禁です。例を挙げると、リポビタンDなどの栄養ドリンク類全般、スポーツドリンクのアクエリアス、食べ物ではセロリと梅干しは必ず避けるようにしています。
 前者二つはいずれもテニスで自分が過去思い出したくもない最悪の負けを経験したときにとったものであったり(アクエリアス、しかも3大会連続)、体調を崩したりした(栄養ドリンク)ことがあったりしたため、どうしてもそれを思い出してしまい精神状態が崩れてしまいます。
 食べ物の方は単純に好きでない為、微妙に精神状態が下向くからです。あえて当日にとる必要のある食品でもないので、必ず避けるようにしています。
 そんな些細なことまでいちいち気を使うのと思われるかもしれませんが、そういった些細なことすら潰して最高のパフォーマンスを発揮しようとするのが競技スポーツというものです。もっとも、人によって細かく行動を規定するのに向き不向きはあると思いますので、そこまで細かくするのが負担に感じる人は、外せない最低限の所だけルーティーン化すればよいでしょう。
 重要なのは、前日の準備と食事、当日の準備と食事、そしてウォーミングアップの手順です。フットバッグは最も競技時間が長いフリースタイルですら、一度競技が始まってしまえばインターバルは殆どありませんので、競技開始前までのルーティーンを組めば十分でしょう。
 ウォーミングアップは毎回毎回違う手順で行う人は少ないとは思いますが、必ず決まった手順で体を温めた方が良いと考えています。私は軽いランニング(ダイナミックストレッチを含む)Iを行った後にごく短距離のダッシュを数本をこなして体を温めていました。その後に、体幹→股関節回りと肩甲骨回り→脚部全般→腕部全般→首回りの順でほぐします。
 因みに意外と勘違いしている人がいますが、ストレッチはウォーミングアップではありません(筋肉は伸ばしても温まらない)。なので、順番としては軽いランニング等で体を温めた後に行うべきですし、スタティックストレッチは強く行うべきではなく、やるとしても一番最後に軽く行う程度が良いでしょう。なるべくであれば、ダイナミックストレッチをうまく取り入れたほうが効果的だと思います。

 以上ルーティーンについて説明してきましたが、これらが大切なのはあくまで「試合で最高のパフォーマンスを発揮するために行っている手段の一つ」ということです。ルーティーンを行う事自体が目的になってしまっては本末転倒ですし、その事が負担に感じるようならなおの事です。
 また、ルーティーンが占めるウエイトが大きくなり頼りすぎるのも問題です。ひとたび試合になってしまえば、準備に係るルーティーンなどはきれいさっぱり忘れて、意識に上らなくなるくらいがちょうどいいでしょう。
 ルーティーンを気にするあまり、「特定のルーティーンを行えなかった」事で集中できなかったりすると、何やってんだって話ですしね。

 ルーティーンは決まったやり方があるわけではなく、あくまで各自で自分に合った方法を作り上げるしかありません。また、一朝一夕に出来上がるものでもなく、何度も反復してようやく形になる類です。自分が自動的に反応するまで刷り込むというのはそれなりに時間がかかるものなのです。
 更に、一度創りあげればそこまで頻繁に変えなくても良いですが、新たに自分が効果的だと感じたことは積極的に取り入れるべきですし、意味が無いと思ったりコストパフォーマンス的に見合わないことは選別していくべきでしょう。
 ここまで書いた事を参考に、自分なりのルーティーンをくみ上げてください。そして、それが試合で実力を発揮することに繋がれば幸いです。