2-1-1.生理学的な観点から持久力を考える

 今回は生理学的な観点から持久力について考えます。
 そんなに細かい内容までは触れませんが、重要な部分だけでも知っているとだいぶ違いますので。

 まずは呼吸の話からですが、生理学的には呼吸とは「エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を生産する仕組み」を指します。生理学を学んだ事が無くても、高校で生物を取った人ならば、解糖系やTCA回路(クエン酸回路)等を思い出すかもしれません。
 そして、そのATPをADP(アデノシン二リン酸)とPi(リン酸)に分解する過程でエネルギーが発生します。
 詳しい化学式などについて知りたい方は専門書をあたるか、ウェブ上でも情報がありますので各自で調べてください。ですが、基本的にスポーツに活かすだけならば、細かい所までは追わなくてもざっくりした理解で問題ありません。
 このエネルギーの生産の仕組みについて知る事が、持久力を考えるうえで非常に役に立ちます。
 さて、その呼吸(エネルギー源生産)ですが、大まかに分けると酸素を使わない嫌気呼吸と、酸素を使用する好気呼吸に分けられます。
 それぞれについて更に解説します。

(1)嫌気呼吸について
 嫌気呼吸によるATP生産が主となる運動は、一般的に無酸素運動などと呼ばれる運動です。
 嫌気呼吸によるATP生産は、更に二つに分ける事が出来ます。
 一つはクレアチンリン酸を使用してATPを生産するATP-CP系、もう一つは解糖系と呼ばれるグルコースを使用してATPを生産する仕組みです。
 ATP-CP系は最も素早くATPを生産出来ますが、最も持久力に乏しく、10秒程度が人間の生理的な限界だと言われています。
 瞬間的に力を発揮するような運動に向いており、特にウエイトトレーニングなどで重い重量を上げる際等に優位になります。
 良く筋力トレーニング用のサプリメントでクレアチンが売られていますが、この仕組みを根拠にしているわけですね。
 スポーツにおいては100m走や走り幅跳び、あるいウエイトリフティングなどの極めて短時間で爆発的な力を生み出す必要がある競技で最も重要になります。
 解糖系については、クレアチンを利用したエネルギー生産には一歩ゆずりますが、それでも非常に素早くエネルギーを生産できます。
 しかしこちらもやはり持久力には乏しく、最長でも40秒程度が人間の生理的限界と言われています。
 因みに、あくまで生理的限界が40秒程度というだけであり、鍛えてない人間に取ってはその半分程度、20秒程度でもパフォーマンスは急激に落ちていくでしょう。
 なお、解糖系によるATP生産の結果乳酸が生産されます(厳密にいうとちょっと違うけど)。よく疲労物質として語られる乳酸です。その為に、解糖系が主になる運動を乳酸系と言ったりもします。
 乳酸は実は単なる疲労物質というだけではないのですが、こちらについては別記事で詳しく触れます。

(2)好気呼吸について
 好気呼吸については、一般的に有酸素運動などと呼ばれる運動で優位になります。
 非常におおざっぱにいうと、グルコースや脂肪を源として酸素を用いてATPを生産します。
 まず先にグルコースの方から説明します。
 グルコース好気呼吸は解糖系やATP-CP系と比べるとATPの生産過程が長く複雑であり、ATPを生産するのに時間がかかりますが、とても効率の良く生産できます。
 例として解糖系に比べると、同じグルコース1単位から実に20倍近いATPを生産する事が出来ます。主に使用されるのはTCA回路と水素伝達系です。
 なお、解糖系と好気呼吸を別の仕組みのような書き方をしていますが、実際には解糖系は好気呼吸にっても重要です。まずは解糖系においてグルコースが分解され、その結果生産される物質をTCA回路(クエン酸回路)に送り込み、そこで多くのATPを生産する反応を起こしているからです。
 疲労回復をうたうサプリメントによくクエン酸が含まれていると思いますが、このTCA回路に直接クエン酸を送り込むことで、疲労回復を行うためのエネルギー生産を促進する事を目的としています。
 先にも述べた通り水素伝達系もありますが、ここでは省略します。運動における持久力を考える場合は、さして問題ではないので。
 次に、脂肪を利用してATPを生産する仕組みも好気呼吸に分類されます。
 こちらはグルコースを用いた好気呼吸よりも更にエネルギー生産速度が遅いです。但しさらに燃費は良いです。
 一単位からのエネルギー生産ではグルコースの好気呼吸よりも3倍以上のATPを生産できます。もっとも、1単位と言っても脂肪とグルコースの重さが違うので厳密に比較はできません。
 一般的に重さを同じ1gとすると、グルコースなら4kcal、脂肪なら9kcalのエネルギーが生産できるとされています。これでも2倍以上燃費がいいですね。
 あと、タンパク質も実はエネルギー源になりうるのですが、これについては体重管理やコンディショニングの回で詳しく説明します。少なくとも持久力を考える上では、特に気にしなくて問題ありません。

 さて、嫌気呼吸と好気呼吸について説明してきました。
 ここで勘違いしてはいけないのは、無酸素運動だから嫌気呼吸だけ、有酸素運動が好気呼吸だけ働いているわけではないと言う事です。
 運動の種別によってどの仕組みが優位になるかという事であり、どれか特定の仕組みだけが働いているという事はほぼ無いと言ってよいです。

 ここで改めて簡単にまとめます。人のエネルギー生産はスポーツ的な観点からみると主に4つの系があり、

1.ATP-CP系:10秒程度が生理的限界。爆発的なエネルギーを発生させる必要がある運動や競技で主になる
2.乳酸系:40秒程度が生理的限界。こちらもエネルギー生産は非常にはやく、速いスピードや大きなパワーが必要とされる競技で主となる。
3.有酸素系(グルコース):エネルギーの生産は上記二つに比べれば遅いが、その分効率が良く、長時間エネルギーを発生させる必要がある競技で主になる。
4.有酸素系(脂肪):最も効率が良い。長時間の運動で上記グルコースを利用した有酸素系とともに主となる。

 これらを考える上で非常に重要なことは、ATP-CP系の10秒や乳酸系の40秒といった生理的限界は、どれほどトレーニングをつもうが伸ばせないという事です。
 たとえ世界トップレベルのアスリートですら、それは例外ではありません。
 しかし実際に比較してみると、5000mの男子の世界記録ペースは1kmあたり2分31秒程度ですが、一般的な成人男性なら同ペースで200m(タイムとしては30秒程度)ついていく事すら困難でしょう。
 言い換えれば、一般人が200mを全力疾走するよりも速いか同程度のペースで、5000mも走ってしまう(タイムは12分35秒程度)訳です。
 これは、5000mの選手が乳酸系の運動を12分以上も出来るようになったわけではありません。厳しいトレーニングを積むことにより、一般人なら乳酸系に属するような運動強度を、有酸素系の運動として行えているという事なのです。

 この考え方は、一見当たり前のようでいて、非常に重要です。
 例えばフットバッグを初めてそんなに時間が経っていない頃ならば、2ADDや3ADDのトリックですら乳酸系が優位になりかねません。
 ですが、仮にフリースタイルに出場したいと考えたとき、2分間の演技構成を考えなければなりません。
 この時に、「いや、俺はトレーニングして乳酸系のトリックをたくさん入れて2分間蹴り続けてみせる」と考えても、それは無理筋なのです。むしろこの方向性でトレーニングしたら、実力があまり伸びない割に怪我の危険性が増すばかりです。
 大切なのは、2ADDや3ADDあるいはフリースタイルに取り入れたいトリックの大部分を、好気呼吸系の運動として行えるように取り組むことなのです。
 長くなりましたので、記事を二つに分けます。次回は、各系の持久力をどのように鍛えていくか具体的に解説していきます。

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