2-2 脂肪を活かす

 今回は有機呼吸系の最後のテーマ、脂肪の燃焼についてです。
 いかに好気呼吸が効率が良いと言っても、使用するエネルギー源がグルコースだけではすぐに体内に貯蔵しているグリコーゲンが尽きてしまいます。
 グリコーゲンの貯蔵量はトレーニングなどによって増やすことがほとんどできません。
 グリコーゲンは肝臓、血液中、筋肉などに存在しますが、それぞれに存在する限界があるためです。
 筋肉量が増えればその分貯蔵量は増えますが、当然消費量も多くなりますのであまり持久力に効果的に働くわけではありません。
 一時期グリコーゲンローディングという手法により通常時よりグリコーゲンを多くする手法がもてはやされましたが、メインストリームとはなっていないと思います。
 その理由は、大きくはコンディショニングや食事量のコントロールがきわめてシビアであった事で、その割にはパフォーマンスへの寄与度が限定的であった為、多くのケースでそこまで推奨されるには至っていません。
 しかしながら、先にも述べた通りグリコーゲンの貯蔵には限りがあるため、それならば別のエネルギー源が必要となるという事で、脂肪をエネルギー源とした好気呼吸の能力が重要になってくるわけです。

 因みに、貯蔵されているグリコーゲンのみでどの程度運動できるかというと、概ねフルマラソンを走り切れるかどうか(ただしトップレベルの話)という程度の様です。
 こう考えると、一般的な競技レベルだとそこまで問題ない様に感じるかもしれませんが、実はそうでもありません。
 そもそもグリコーゲンが空になるほど運動するという事は極めて身体にとって危険なことですし、リカバリーも大変です。
 また、確かに2時間以上を高速度で走り続けるというレベルの運動強度はそうそうないかもしれませんが、とは言え一日の運動がそれなりの強度で3時間程度に及ぶという事は普通に起こりえます。これをグリコーゲンのエネルギーだけで賄うというのは、なかなかに厳しいものがあるのです。
 ですので、グリコーゲンの消耗を抑えられれば抑えられるほど、日々の練習やトレーニングに余裕が生まれ、また高頻度で繰り返すことができるようになります。

 人はグリコーゲンを利用した好気呼吸が優位になりやすく、脂肪を利用する能力は意識的に鍛えないといけません。
 もっとも、脂肪を利用する好気呼吸をどんなに鍛えたとしても、グリコーゲンを利用した好気呼吸より優位になる事は無いようです。
 私が大学で学んでいた頃は、最も脂肪を利用している状態でも全体の50%程度がせいぜいだと言われていました。

 脂肪を利用した好気呼吸の能力を鍛えるためには、その特性について知っておく必要があります。
 それは、人は常にグルコースを利用した好気呼吸を使いたがるという事、そして代謝が安定しないと脂肪を利用した好気呼吸の比率は上がっていかないという事です。
 その為、以下の2点を意識すると良いでしょう。

(1)普段の練習時に砂糖、ブドウ糖液等、果糖等の等類が入った飲料(スポーツドリンクなど)を飲まない

 これは人がグリコーゲンを利用したがるという性質を考慮してのことです。
 通常人の代謝は運動し始めは主にグリコーゲンが使用され、代謝が安定すると脂肪を利用する比率が上がっていきます。
 しかし、そうやって脂肪の代謝比率が高まっても、そこで砂糖やブドウ糖液糖等が多量に含まれる飲料を取ると、すぐに血糖値が上がって糖を利用する代謝比率が高まってしまい、脂肪があまり使われなくなってしまいます。
 それが最高のパフォーマンスを発揮しなければならない日(試合等)であればそれでもいいんですが、持久力を鍛えるという観点からすると平常の練習時に使用するのは好ましくありません。
 スポーツドリンクというといかにも運動時の水分補給に最適というような宣伝がされ、またそういうイメージを持っている人も多いと思いますが、状況によっては全く適した飲料とは言えない(むしろ害も多い)為、使用する際は本当にそれが必要な状況かを適切に判断しましょう。
 また、クエン酸入りの飲料も同様に好ましくないので注意です(結局糖利用の代謝回路が使われるため)。
 多量に汗をかく場合において、運動時に適切なミネラル補給が重要になるケースもありますが、殆どのケースにおいて日頃の食生活がきちんとしていれば、単純に水を飲むだけで問題ないかと思われます。
 基本的にただの水(ミネラルウォーターを含む)を摂るだけで問題ありませんし、むしろ日々の練習は可能な限りそうあるべきでもあります。

(2)食前あるいは食間(空腹時)に強度の低い運動(有酸素運動)を長時間行う

 これは、体内のグリコーゲンが減少しているときにあえて運動を行う事で、脂肪の使用する能力を高めようという手法です。
 但し、気を付けなければいけないのは、絶対に強度の高い運動(嫌気呼吸優位の運動)を行ってはいけないという事です。
 常に有酸素運動が優位な運動を行う事が絶対条件で、目安としては心拍数130~140位の運動を心がけるとよいでしょう。
 有酸素運動的な持久力が高い人は心拍数160くらいまでは大丈夫でしょうが、一般的な人であれば140くらいが無難だと思います。
 尚この時に、なるべくペース変化を付けず一定の速度で走るようにしましょう。また、アップダウンの多いコースも避けるべきです。
 空腹時に糖を多量に必要とする運動(≒嫌気呼吸優位の運動)を行う事はかなりリスクが高く、場合によってはトレーニング効果を得るどころか逆効果になってしまう事すらあります(これはまた別記事で書きます)。
 ちょっと軽いかなというくらいの強度の運動を、30分から1時間程度行えば十分だと思われます。

2-1-3 好気呼吸的な持久力について

 さて今回は好気呼吸的な持久力の話です。一般的な方が持久力と言われた場合、ほぼこの持久力を想像するでしょう。
 今回も、好気呼吸によるエネルギー(ATP)生産という観点から考えます。
大事な能力は二つあり、「酸素を体内(細胞内)に取り込む能力」と「酸素を用いてATPを生産する能力」に分けて考えられます。

(1)酸素を取り込む能力
 こちらは読んで字のごとくですが、好気呼吸によりエネルギーを生産したいならば、各細胞にきちんと酸素が供給されなければなりません。
 この能力が低いと細胞に酸素が供給されず、低い運動強度ですらすぐに嫌気呼吸優位になってしまいます。
 分かりやすい症状としては、すぐに「息が切れる」という事でしょうか。ですので、この能力を鍛えることを心肺機能の強化と言う事も良くあります。
 これは更に分けると「肺が酸素を取り込む能力」と「取り込んだ酸素を各細胞に運搬する能力」に分けられます。
 前者については肺機能に高い負荷をかけることで鍛えることが出来ます。インターバルトレーニングはその代表と言えるでしょう。
  ランニングについてある程度学んだ人であれば、VO2MAXを鍛えるという言葉を知っているでしょうが、それともほぼ同じ意味となります。
 酸素を運搬する能力については、心臓の能力を鍛えることと血液による酸素の運搬能力そのものを鍛える事が挙げられます。
 心臓の能力については肺の能力を鍛えることとほぼ一緒のトレーニング内容となり、インターバルトレーニングなどで鍛える事が出来ます。
 もっとも、インターバルトレーニングと言っても多くの種類がありますが、フットバッグに適しているものとして一例を挙げると、200mのインターバルでしょう。
 やり方としては、ある程度高強度(心拍数が160を超える強度)で200mを走り、2分~2分30秒程度休息後また200mを高強度で走る、というルーティーンを5~10回程度行います。休息は止まって休んでもいいですし、200mをゆっくりジョグするのも良いでしょう。
 フットバッグそのものでインターバルトレーニングを行いたい場合は、高強度のシュレッドを30~40コンタクト程度、20秒~30秒程度休息、高強度のシュレッドといったルーティーンを5~10セット程度繰り返してみてください。
 フットバッグで行う場合、どうしても200m走ほどには強度を上げられないので、その分休息を短くすることで心肺に負荷をかけます。
 血液による酸素運搬能力について鍛えることはかなり難しいです。一応、マラソン等の長距離種目の選手が行う高地トレーニングは、その代表と言えるでしょうか。
 高地トレーニングはあえて酸素が薄い状況下でトレーニングすることで、血液中に含まれる赤血球の酸素と結びつく能力を高めるというのが、一般にその効果の根拠となっています。
 但し、先にも言った通り一般的なトレーニング手法としてあまり現実的でない、それこそ数週間単位で高地トレーニング合宿に行くとかしないと無理なので、心肺機能を鍛える方法をトレーニングの中心に据えることとなるでしょう。

(2)酸素を用いてエネルギーを生産する能力
 どんなに酸素が上手く供給されても、それを用いてエネルギーを生産する能力がおいつかなければ嫌気呼吸優位に傾いてしまいます。そうなると結局は長い運動が続けることが不可能になります。
 こちらの場合症状としては、フットバッグなら「足が動かなくなる」感覚が一般的でしょうか。
 この能力は好気呼吸がミトコンドリアで行われることから、ミトコンドリアの能力などと言ったりもしますね(あまり一般的ではないですが)。
 こちらの能力は、一定の強度の運動を長時間行う事で鍛える事が出来ます。
一般的は、心拍数140~160程度の運動を少なくとも30分以上、なるべくなら1時間あるいはそれ以上行う事が良いとされています。
 フットバッグで同様の練習を行う場合は、技の難易度や強度を落として、コンタクト数を増やす練習が必要となります。まずは100コンタクトを目安に、連続して蹴ることを目指してみると良いでしょう。
 もちろんノードロップが理想ではありますが、ドロップしても問題ありません。その代わりに、息をつかずに拾い上げ、シュレッドを継続してください。
 とは言え、フットバッグのシュレッドでは、どれだけ強度を落としてもせいぜい2~3分程度が限界と言え、これは好気呼吸系の運動においては、最も高い強度に属します。
 ですが、これより強度を落として長時間というのは難しいので、やはりフットバッグ以外で長距離・長時間のランニングを取り入れることが、最も効率が良いと思われます。

 さて、好気呼吸によるエネルギー生産という観点から持久力について考えてきました。
 ここで注意したいのは、インターバルトレーニングを行うことは確かに心肺系を鍛えることをメインとしますが、ではエネルギー生産能力のトレーニングにならないかと言われればそんなことは無いです。
 また、低い強度で長距離・長時間走るトレーニングが、心肺系のトレーニングにならないという事も、同様にありません。あくまでどちらに比重があるかという話です。
 ですが上記のことを考えると、インターバルトレーニングのような心肺機能に負荷をかけるトレーニングだけでも、ランニングのような長距離走だけでも十分でないことが分かります。
 どちらも重要なトレーニングであり、両方をバランスよく行っていかなければならないでしょう。
 しかしながら、フットバッグの練習そのものがそれなりに強度が高く、どちらかと言えばインターバル的なトレーニング内容を多く含むので、まずはどちらか一方を取り入れるとなれば、艇~中強度で長距離・長時間のランニングを取り入れた方が効果が出やすいと思われます。

 おそらく、フットバッグを行うだけでは、特に上級者においては十分な負荷を得られなくなることが多くなるでしょう。
 心肺機能に負荷をかけるという面では、単純に強度が不足します。
 そのことを考慮した内容の練習を行えば負荷をかけることは可能ですが、そういった練習だけではなく、技術習得をメインとした練習も行わなければなりません。
 特にフットバッグは技術要素が占める割合が非常に多い競技特性なので、身体的な負荷の高い練習ばかりを多くするわけにはいきません。
 また、酸素を用いてエネルギーを生産する能力については、フットバッグ自体がペース変化が激しくまた長時間一定の強度で行うような運動でもない(嫌気呼吸優位に傾きやすい)ことから、こちらの面で鍛えることはあまり現実的ではありません。
 もちろん一日の練習が1~2時間となればそれなりに好気呼吸系の持久力は鍛えられますが、限界があるのです。
 フットバッグを始めた段階、要は各種体力が低い状態においてはフットバッグだけを行うことで十分に鍛えられますが、ある程度競技力が向上してきた段階においては、フットバッグのみで持久力を鍛えることはかなり難しくなります。
 そのため、やはりフットバッグ以外の運動を取り入れることが、総合的に見れば持久力を含めた体力の向上には効率が良く、競技力を高めるという点でも有効だと言えます。

※注意すべきこと
 確かに自分が取り組む競技以外のトレーニングを取り入れることは、やり方さえ間違えなければ非常に高い効果を生みます。
 しかしながら、当然そこには守らなければならない大原則があり、「自分の競技そのもの(ここではフットバッグ)の練習時間を、それ以外の運動系によるトレーニング時間が超えてはならない」という事です。
 基本的に一般的体力を鍛えるために取り入れるトレーニングは、やればやるだけ確実に結果が返ってくることが多く、それが楽しくて、気づけば自分の専門種目の練習以上にトレーニングに時間を費やしてしまうという事態に陥る人が少なくありません。
 あくまで、何のためにトレーニングをしているかという目的(自分の専門種目のレベルを高める為)を明確にし、その手段であるはずのトレーニングが目的となってしまわないように気を付ける必要があります。

2-1-2 乳酸系の持久力について

 前回からの続きです。
 これまで述べてきた内容を踏まえた上で、各種持久力を身に付ける為にはどうしたらよいでしょうか。


 まず、乳酸系の持久力の話からしましょう。
 乳酸系の運動については長くとも30~40秒程度と書きましたが、これは厳しいトレーニングを積んだ人の話で、そうでない人は20秒持てばよい方です。200mを最後までスピードを維持して走りきれない感じですね。何なら、100mであっても最後の方は大幅にスピードが落ちるかもしれません。
 つまり、乳酸系の運動においても、持久力はあるわけです。人によってはスピード(短距離的スピード)の持久力と呼んだりもします。
 先の説明にのっとって言えば、「解糖系やATP-CP系でエネルギーを生産できる能力の高さ」と言う事が出来ます。
 これを鍛えるためには、「40秒程度全力で動く」ことを目指してトレーニングを繰り返すしかありません。フットバッグで言えば、概ね40コンタクトで激しめ(例えば全てシャッフルなど)のシュレッドをするのが該当するかと思われます。
 ですが、ここでフットバッグの厄介な問題が顔を出します。
 それは、身体的な負荷の強度を上げようすればするほど、技術的なレベルの高さが要求されるという事です。理由は単純で、身体的な負荷を高めるためには全力の動作を続ける必要があり、それは可能な限りドロップをしてはいけないことを意味するからです。
 鍛えたい能力を考えれば、せいぜい1ドロップか多くても2ドロップ程度で、それ以上になるとどうしても身体にかかる負荷が落ちてしまいます。かと言って、じゃあノードロップで行ける範囲でとやってしまうと、運動強度そのものが上がりません。
 この要求は技術的にかなり厳しく、それこそワールズ基準ですら上位層並の技術の高さが求められてしまいます。しかしながら、では先に技術レベルを高めることに専念する方が良いかと言えば、それも問題があります。
 精神力、技術力、体力のいわゆる心技体を鍛える際に、何を優先した方が良いかと言えば圧倒的に体力が先だと言われています。理由としては、やればやるだけ確実に効果が上がるからです。
 また、技術力を鍛える際にも体力の素地があった方が習得が早くなりますし、上記のような技術力を身に着けるには時間がかかりすぎてしまいます。体力的な素地が鍛えられていないなら猶更なので、様々な点からみてもトレーニング効率が良くありません。
 
 その為に、フットバッグ以外のトレーニングの追加を検討する方が現実的でしょう。
 例を挙げると、200m走や300m走、縄跳びで二重跳びを連続50回程度といったあたりでしょうか。
 運動強度的に200mでもかなり厳しい(100mたどり着く前に急激にスピードが落ちる)人は、100mから開始しても良いと思います。
 因みに、400mの世界記録ですら40秒を超えてしまうので、300m全力で走るという距離がトレーニング上限として考えて良いでしょう。と言いますか、300mを40秒で走りきれるのなら相当に速い部類に入ります。
 また、たとえシャッフルで40コンタクトノードロップのような練習がこなせる上級者でも、強度として例えば300m全力走に近づけることはかなり難しいので、やはり上級者でもフットバッグ以外のトレーニングとして取り組むことを考えた方が良いでしょう。
 因みにこのフットバッグでのトレーニングを行う時、ドロップしても止まってしまってはいけません。即座に拾い40コンタクトまで何としてでもたどり着きましょう。
勿論ノーミスが理想ですが、ミスの度に止まって休憩しててはトレーニングになりません。
 その代わりに、セット間の休息は長めに取り、次に開始する際に十分回復した状態で取り組めるようにします。これは、200mや300m等のトレーニングでも考え方は同じです。

 好気呼吸的な持久力についての解説もそれなりに長くなるので、更に次回の記事に続きます。

2-1-1.生理学的な観点から持久力を考える

 今回は生理学的な観点から持久力について考えます。
 そんなに細かい内容までは触れませんが、重要な部分だけでも知っているとだいぶ違いますので。

 まずは呼吸の話からですが、生理学的には呼吸とは「エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を生産する仕組み」を指します。生理学を学んだ事が無くても、高校で生物を取った人ならば、解糖系やTCA回路(クエン酸回路)等を思い出すかもしれません。
 そして、そのATPをADP(アデノシン二リン酸)とPi(リン酸)に分解する過程でエネルギーが発生します。
 詳しい化学式などについて知りたい方は専門書をあたるか、ウェブ上でも情報がありますので各自で調べてください。ですが、基本的にスポーツに活かすだけならば、細かい所までは追わなくてもざっくりした理解で問題ありません。
 このエネルギーの生産の仕組みについて知る事が、持久力を考えるうえで非常に役に立ちます。
 さて、その呼吸(エネルギー源生産)ですが、大まかに分けると酸素を使わない嫌気呼吸と、酸素を使用する好気呼吸に分けられます。
 それぞれについて更に解説します。

(1)嫌気呼吸について
 嫌気呼吸によるATP生産が主となる運動は、一般的に無酸素運動などと呼ばれる運動です。
 嫌気呼吸によるATP生産は、更に二つに分ける事が出来ます。
 一つはクレアチンリン酸を使用してATPを生産するATP-CP系、もう一つは解糖系と呼ばれるグルコースを使用してATPを生産する仕組みです。
 ATP-CP系は最も素早くATPを生産出来ますが、最も持久力に乏しく、10秒程度が人間の生理的な限界だと言われています。
 瞬間的に力を発揮するような運動に向いており、特にウエイトトレーニングなどで重い重量を上げる際等に優位になります。
 良く筋力トレーニング用のサプリメントでクレアチンが売られていますが、この仕組みを根拠にしているわけですね。
 スポーツにおいては100m走や走り幅跳び、あるいウエイトリフティングなどの極めて短時間で爆発的な力を生み出す必要がある競技で最も重要になります。
 解糖系については、クレアチンを利用したエネルギー生産には一歩ゆずりますが、それでも非常に素早くエネルギーを生産できます。
 しかしこちらもやはり持久力には乏しく、最長でも40秒程度が人間の生理的限界と言われています。
 因みに、あくまで生理的限界が40秒程度というだけであり、鍛えてない人間に取ってはその半分程度、20秒程度でもパフォーマンスは急激に落ちていくでしょう。
 なお、解糖系によるATP生産の結果乳酸が生産されます(厳密にいうとちょっと違うけど)。よく疲労物質として語られる乳酸です。その為に、解糖系が主になる運動を乳酸系と言ったりもします。
 乳酸は実は単なる疲労物質というだけではないのですが、こちらについては別記事で詳しく触れます。

(2)好気呼吸について
 好気呼吸については、一般的に有酸素運動などと呼ばれる運動で優位になります。
 非常におおざっぱにいうと、グルコースや脂肪を源として酸素を用いてATPを生産します。
 まず先にグルコースの方から説明します。
 グルコース好気呼吸は解糖系やATP-CP系と比べるとATPの生産過程が長く複雑であり、ATPを生産するのに時間がかかりますが、とても効率の良く生産できます。
 例として解糖系に比べると、同じグルコース1単位から実に20倍近いATPを生産する事が出来ます。主に使用されるのはTCA回路と水素伝達系です。
 なお、解糖系と好気呼吸を別の仕組みのような書き方をしていますが、実際には解糖系は好気呼吸にっても重要です。まずは解糖系においてグルコースが分解され、その結果生産される物質をTCA回路(クエン酸回路)に送り込み、そこで多くのATPを生産する反応を起こしているからです。
 疲労回復をうたうサプリメントによくクエン酸が含まれていると思いますが、このTCA回路に直接クエン酸を送り込むことで、疲労回復を行うためのエネルギー生産を促進する事を目的としています。
 先にも述べた通り水素伝達系もありますが、ここでは省略します。運動における持久力を考える場合は、さして問題ではないので。
 次に、脂肪を利用してATPを生産する仕組みも好気呼吸に分類されます。
 こちらはグルコースを用いた好気呼吸よりも更にエネルギー生産速度が遅いです。但しさらに燃費は良いです。
 一単位からのエネルギー生産ではグルコースの好気呼吸よりも3倍以上のATPを生産できます。もっとも、1単位と言っても脂肪とグルコースの重さが違うので厳密に比較はできません。
 一般的に重さを同じ1gとすると、グルコースなら4kcal、脂肪なら9kcalのエネルギーが生産できるとされています。これでも2倍以上燃費がいいですね。
 あと、タンパク質も実はエネルギー源になりうるのですが、これについては体重管理やコンディショニングの回で詳しく説明します。少なくとも持久力を考える上では、特に気にしなくて問題ありません。

 さて、嫌気呼吸と好気呼吸について説明してきました。
 ここで勘違いしてはいけないのは、無酸素運動だから嫌気呼吸だけ、有酸素運動が好気呼吸だけ働いているわけではないと言う事です。
 運動の種別によってどの仕組みが優位になるかという事であり、どれか特定の仕組みだけが働いているという事はほぼ無いと言ってよいです。

 ここで改めて簡単にまとめます。人のエネルギー生産はスポーツ的な観点からみると主に4つの系があり、

1.ATP-CP系:10秒程度が生理的限界。爆発的なエネルギーを発生させる必要がある運動や競技で主になる
2.乳酸系:40秒程度が生理的限界。こちらもエネルギー生産は非常にはやく、速いスピードや大きなパワーが必要とされる競技で主となる。
3.有酸素系(グルコース):エネルギーの生産は上記二つに比べれば遅いが、その分効率が良く、長時間エネルギーを発生させる必要がある競技で主になる。
4.有酸素系(脂肪):最も効率が良い。長時間の運動で上記グルコースを利用した有酸素系とともに主となる。

 これらを考える上で非常に重要なことは、ATP-CP系の10秒や乳酸系の40秒といった生理的限界は、どれほどトレーニングをつもうが伸ばせないという事です。
 たとえ世界トップレベルのアスリートですら、それは例外ではありません。
 しかし実際に比較してみると、5000mの男子の世界記録ペースは1kmあたり2分31秒程度ですが、一般的な成人男性なら同ペースで200m(タイムとしては30秒程度)ついていく事すら困難でしょう。
 言い換えれば、一般人が200mを全力疾走するよりも速いか同程度のペースで、5000mも走ってしまう(タイムは12分35秒程度)訳です。
 これは、5000mの選手が乳酸系の運動を12分以上も出来るようになったわけではありません。厳しいトレーニングを積むことにより、一般人なら乳酸系に属するような運動強度を、有酸素系の運動として行えているという事なのです。

 この考え方は、一見当たり前のようでいて、非常に重要です。
 例えばフットバッグを初めてそんなに時間が経っていない頃ならば、2ADDや3ADDのトリックですら乳酸系が優位になりかねません。
 ですが、仮にフリースタイルに出場したいと考えたとき、2分間の演技構成を考えなければなりません。
 この時に、「いや、俺はトレーニングして乳酸系のトリックをたくさん入れて2分間蹴り続けてみせる」と考えても、それは無理筋なのです。むしろこの方向性でトレーニングしたら、実力があまり伸びない割に怪我の危険性が増すばかりです。
 大切なのは、2ADDや3ADDあるいはフリースタイルに取り入れたいトリックの大部分を、好気呼吸系の運動として行えるように取り組むことなのです。
 長くなりましたので、記事を二つに分けます。次回は、各系の持久力をどのように鍛えていくか具体的に解説していきます。